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オーバービュー 日本は高齢化社会の世界におけるトップランナーであり,本邦の平均寿命は2050年までに92歳になることが予想されている.総人口は2015年の1億2,709万人から2050年には1億720万人と約16%減少すると推定されているが,老年人口(65歳以上)は2015年の3,387万人から,2042年に3,935万人でピークを迎えるまで,今後20数年間は増加傾向が続くことが予想されている1). この老年人口の増加に伴い大腿骨近位部骨折の発生数も増加傾向にある.日本整形外科学会プロジェクト研究事業「大腿骨近位部骨折 全国調査」によると,1998年の大腿骨近位部骨折/頚部骨折の発生数は36,447人/15,767人であり,10年後の2008年にはそれぞれ75,144/32,127人に倍増し,2019年では122,407/54,348人とさらに増加傾向にあることが報告されている.また,頚部骨折の70%前後に人工骨頭置換術が施行されていることが全調査期間を通じて示されている2).全世界的には,大腿骨近位部骨折の発生数(1990年)は年間126万人であり,2025年には260万人に倍増し,2050年には2130万人までに増加する可能性があると推定され,社会的経済的にも大きな問題であることが指摘されている3). 転位型大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭置換術は,確立した治療法として本邦のみならず諸外国のガイドラインにおいてもその有効性が明示されている4,5).その一方で,高齢者の人工骨頭術後の死亡率は,1ヵ月以内:14%,1年時:17〜34%と高く,周術期の合併症も約20%に認められることが報告され,大腿骨頚部骨折が高齢者の生命予後に大きく影響する疾患であることは間違いない6,7).術中術後の合併症をいかに低減させるかは極めて重要な問題である. また,長期耐用性と除痛効果の観点から,活動性が高い症例に対しては人工股関節置換術を考慮する傾向にあり,その適応と注意点について理解が必要と思われる. 医療費に目を向けると,人工骨頭置換術が施行された際の入院医療費は,本邦の複数の急性期病院での2003年のレセプト総点数(手術費および材料費を含む)は患者一人当たり平均約20万点と報告されており8),2020年に筆者の勤務する急性期1[基礎知識]オーバービュー本特集のねらい飯田 哲 Satoshi Iida松戸市立総合医療センター副院長〒270-2296 千葉県松戸市千駄堀993-114(284)整形外科Surgical Technique vol.11 no.3 2021

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