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松井健太郎 Kentaro Matsui■帝京大学医学部整形外科学講座/帝京大学医学部附属病院外傷センター講師ピロン骨折A治療コンセプト0238はじめに:名の由来 ピロン骨折(pilon fracture)は脛骨遠位骨幹端部に及ぶ脛骨遠位関節内骨折のことであり,脛骨天蓋骨折(plafond fracture)とも呼ばれる1).ピロンとはフランス語で「すりこぎ」という意味であり,1911年にフランス人放射線科医Destotが本骨折をピロン骨折と命名した2).Plafondはフランス語の「天井」を意味する単語であり,1950年にBoninにより本骨折に使用された3).すりこぎ(ピロン)のような距骨が脛骨天蓋部(plafond)に衝突し,脛骨遠位関節面を粉砕する様子を表した名である. 本骨折は非常に治療難易度の高い骨折として知られている.骨折の整復内固定が難しいだけでなく,軟部組織の評価と取り扱いの難易度も高い.本骨折患者の94%が35〜84ヵ月の時点で画像上変形性足関節症になる4).また平均3年の時点で,患者の35%に持続的な足関節痛と可動域制限があり,43%が失職し,その68%が再就職できない5).すなわち,本骨折は患者の社会生活に大きな影響を与える外傷であり,綿密な手術計画を立てることはもちろん,自身の経験や技術,手術チームやインプラントなど病院の状況などの医療者要因が成績不良因子にならないと思える術者と施設が手術に当たるべきである.受傷機転,症状1.受傷機転 本骨折は脛骨骨折の3~10%を占める1).脛骨天蓋への軸圧により生じ,受傷機転には,スキーなどの低エネルギー外傷,高齢者の低エネルギー外傷,高所墜落などの高エネルギー外傷の3パターンがある.後述するように,受傷機転により骨折型が異なる.高エネルギー外傷では全身他部位の外傷有無の評価が必須である.2.病歴聴取 糖尿病,末梢神経障害,末梢血管疾患,ステロイド使用,骨粗鬆症,喫煙,アルコール乱用があると術後合併症リスクが高くなる.創傷合併症などの手術合併症を減らすためにも,併存症聴取は重要である.後述するように,段階的治療を要する本骨折では内固定までに1〜3週間の待機期間が生じる.特に待機期間,術後の血糖コントロール,禁煙の重要性を患者に説明し,患者自身が正しく併存症管理の重要性を認識できるようにすること,必要に応じ専門科の介入を行う.3.症状・診察所見 軟部組織の評価を正しく行うことが重要である.軟部組織損傷が強い場合や腫脹が強い場合は内固定を行わない.また,大きく転位した骨片が,皮膚を突き上げることで皮膚壊死を引き起こす場合があるため,X線と照らし合わせて軟部組織をよく観察することも重要である.水疱は受傷直後から3日までの間にできる6).水疱には内容物が透明な漿液性の水疱と,血性の水疱がある.両方とも表皮真皮接合部が破綻した結果生じるが,血性水疱のほうがより損傷程度が高く,治癒に時間がかかる.

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