眼科グラフィック2021年別冊 11解剖 眼瞼手術に必要な解剖1章5.5mm,4~5.5mmとされている1~4).また,瞼裂の横幅は約2.8cm前後とされ,内眼角部のひだ(内眼角贅皮)は東アジア人に多く,重瞼のない場合は100%あるとされ5,6),重瞼がある場合は,その形(平行型もしくは末広型)に影響を与える.加えて,眼瞼縁のカーブ(contour)は顔面全体の整容的印象において非常に重要であり,第一眼位においては,上眼瞼の瞼縁はほぼ12時の角膜輪部で最高位置になり,角膜輪部を1~3mm覆う7). 瞬目の“動的”な動きは,主に眼輪筋(閉臉)と眼瞼挙筋コンプレックス(開臉)によって行われ,両者は互いに拮抗している.開臉動作により,視軸をクリアにして視界を確保し,閉瞼動作をもって,眼球の保護態勢とする.開臉は,上眼瞼と隣接している前頭筋の挙上によっても間接的に影響を受ける(図2).閉瞼は解剖学的静止位であり,眼瞼挙筋コンプレックスの弛緩とともに眼輪筋の作用に依るが,臥位では重力の影響も受ける.また,強制的な強閉瞼では鼻根筋と皺眉筋が収縮して眼輪筋の働きを助ける(図3).一方,第一眼位のみでなく,垂直注視の際にも,視軸をクリアにするために,上下の眼瞼が連動する必要がある.上方注視の際は,眼瞼挙筋群と前頭筋の作用によって上眼瞼は眉毛とともに挙上される(図4A).このときの上方注視時の瞼縁‒眼球反射間距離をMRD-3として,正常値は平均7mmとされている8).下方注視をすると,下眼瞼の位置は下眼瞼牽引組織(lower eyelid retractors;LER)によって引き下げられる(図4B). 瞬目のもう一つの重要な機能として,眼表面の涙液循環がある(涙液ポンプ).閉瞼することで眼表面の涙液を涙道に送って排泄し,開瞼動作によりtear meniscusに溜まった涙液を眼表面に行きわたらせる.また,眼輪筋の一部であるHorner筋は,涙小管および涙囊を囲み,瞬目時に涙道を圧迫して涙液ポンプの原動力となっている9,10).眼瞼解剖各論 眼瞼は大きく前葉と後葉に分けられ,それぞれ特徴的な付属器を持つ.前葉は,皮膚と眼輪筋,後葉は,結膜,瞼板とその牽引組織(上眼瞼:眼瞼挙筋群,下眼瞼:LER)で構成される.1)眼瞼前葉① 皮膚 眼瞼皮膚は非常に薄く,重瞼周囲では厚さ1㎜以下で全身で最も薄い11).通常,睫毛は一列であり,毛根は皮膚と瞼板に存在し,Zeiss腺(脂腺),Moll腺(汗腺)を伴う.睫毛毛根周囲にはRiolan筋があり,マイボーム腺の開口に関わると言われている12).これらの睫毛およびその付属組織は眼表面および結膜囊への異物の迷入を阻止する.② 眼輪筋 眼輪筋は瞼裂を取り囲む平らな筋肉で,同心円状に分布し,運動神経支配は顔面神経の頬骨枝である.眼瞼挙筋腱膜につながる穿通枝が眼輪筋を貫通して皮下まで伸びる場合に限り,開臉時に眼瞼溝ができ,重瞼が形成される.重瞼線の位置は,日本人では通常,睫毛縁から5~6mmである.眼輪筋下には線維性脂肪組織(fibro-adipose tis-sue)があり,東洋人においてはこれが豊富であるために,特徴的な膨らんだ眼瞼となりやすい. 眼輪筋は眼瞼部,眼窩部に分けられ,眼瞼部はさらに隔膜部と瞼板部に分けられる(図5).通常の瞬目では瞼板部が主に用いられ,強閉瞼では隔膜部と眼窩部も用いられる.隔膜部の深層が涙囊を囲み,瞼板部の深層がHorner筋となり,涙液ポンプの原動力となる.
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