nursingraphicus2021
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化器の異常でみられる症候と看護 1 定義 腹水とは,血管やリンパ管から漏れ出した液体が腹腔内にたまったものをいう(図2-22).通常,腹腔内に水分がたまることはないが,なんらかの原因によって腹水が起こることがある.腹水がたまるとお腹が水膨れの状態になり,内臓を圧迫する. 2 分類・鑑別診断 腹水は,大まかに滲出性腹水と漏出性腹水に分かれる(表2-12).漏出性腹水の発生機序には,表2-13の三つがある. 腹水がたまる疾患には肝疾患やネフローゼ症候群,がんなどがあり,鑑別診断をすることによって病名が特定される.鑑別診断では腹水の色や性状を調べることが必要で,特に色を調べることによって病名がある程度推測できる. 腹水が透明や淡黄色の場合は,肝硬変やネフローゼ症候群の可能性がある.肝硬変は肝臓病の一種で,肝臓が硬くなって正常に機能しなくなり,腹水がたまるようになる(図2-23).ネフローゼ症候群は腎臓病の一種で,腎臓が正常に機能しなくなることによって尿の量が減り,腹水がたまる. 腹水が暗いオレンジ色の場合は,化膿性腹膜炎の可能性が高い.がんが進行・転移し,腹膜に癌性の炎症が生じると(癌性腹膜炎),体液が漏れ,赤色の腹水がみられる. 原因疾患としては慢性肝疾患が81.0%と多く,続いて悪性腫瘍が10.0%,心不全が3.0%である.腹水患者の5%に,二つ以上の原因がある. 3 治療 軽症~中等症では,食欲を損なわない程度の緩やかな食塩摂取制限は有効である.アルブミン投与は利尿薬に対する反応性を高めるため,低アルブミン血症時に利尿薬と併用することを勧める.難治性腹水には大量腹水穿刺排液*が有用である.腹水濾過濃縮再静注法*(CART)も一つの方法である.●滲出性腹水と漏出性腹水がある●心臓,肝臓,腎臓の病気,がんなどさまざまな原因で起こる●塩分制限やアルブミン投与,利尿薬の併用を行う壁側腹膜臓側腹膜腹腔結腸小腸肝臓胃滲み出した水がたまっている図2-22■腹水●腹水〈動画〉大量腹水穿刺排液腹水がなくなるまで排液を行う治療法.循環不全や腎障害などの合併症を予防するため,血液製剤のアルブミンを投与しながら行うことが推奨されている.腹水濾過濃縮再静注法腹水からタンパク質など必要な成分を回収して再利用する治療法.専用のバッグに貯留した腹水を取り出し,2種類のフィルターで細菌や細胞,不要な水分を取り除いて静脈から体内に戻す.*71●視聴覚面から学びをサポート! AR(動画・アニメーション)●知識の幅を広げる! 用語解説・plusα10胆道系の疾患コレステロール結石で20mm未満のものが良い適応とされる. 外科的治療としては胆囊摘出術となるが,症状のない胆囊結石に手術を行うべきかの結論は出ておらず,胆囊壁が腹部超音波検査で十分に評価できる場合には,年1回の経過観察が行われている.しかし,充満結石や胆囊造影が陰性の場合,がんの疑いのある胆囊壁肥厚例については,手術が勧められる.総胆管結石 総胆管結石は放置するといずれは胆管炎を起こすため,治療が行われる.第一選択は経乳頭的内視鏡治療で,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST*,図10-6)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilation:EPBD,図10-7)が行われるが,どちらを選択するかは施設ごとに異なる.EPBDのほうが内視鏡的機械的砕石術(endoscopic mechanical lithotripsy:EML,図10-8)を伴うことが多く,膵炎の合併症が多い.ESTは出血が多く,リスクを勘案して選択される. 経乳頭的内視鏡治療が困難な場合には,経皮的経胆管治療か外科的治療となる.外科的治療には,腹腔鏡下胆囊摘出術(図10-9)と開腹胆囊摘出術がある.肝内結石 肝内結石は悪性所見や狭窄がない場合は,定期的に経過観察を行うが,症状がある場合や胆管狭窄を伴う場合には内視鏡的治療を行い,不成功であれば手術が検討される.がんを伴う場合は手術が基本であり,肝萎縮を伴う場合もがんの発生母地となる可能性が高いため手術が検討される.肝内結石自体ががんにつながる疾患であり,結石が除去された後も経過観察が必要である.EST内視鏡的に十二指腸乳頭を観察しながら,膵胆管開口部を切開用ナイフで切開する方法.*胃切除術後の内視鏡処置胃切除術後(特にルーワイ再建腸管やビルロートⅡ法再建例)に発生した胆石症では,通常の内視鏡での処置が困難なことがあるが,ダブルバルーン内視鏡等を用いることで処置が可能となってきた.ただし,専門施設でのみ行われている.図10-6■EST乳頭内視鏡的に十二指腸乳頭を観察しながら,膵胆管開口部を切開用ナイフで切開する.膵管総胆管内視鏡ESTナイフ図10-7■EPBD十二指腸総胆管内視鏡内視鏡的に十二指腸乳頭を観察しながら,膵胆管開口部をバルーンで拡張させる.バルーン図10-8■EML胆石が大きい場合に,内視鏡的に挿入したバスケットカテーテルで胆石を砕く.バスケットカテーテル321本文の内容に関する豆知識や最新の見解などを紹介用語のおさらいや、難しい用語の解説を載せています14アレルギー S t u d y エピペンⓇには血管収縮作用,強心作用がある.またβ2作用には肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑制する作用もある.ただし,エピペンⓇはアナフィラキシーが現れたときに使用するものであって,医師の治療を受けるまでの間,症状の進行を一時的に緩和し,ショックを防ぐための補助治療剤(アドレナリン自己注射薬)であり,アナフィラキシーを根本的に治療するものではない.そのため,エピペンⓇの注射後は直ちに医師による診療を受ける必要がある.本人以外にも,保護者,教師,救急救命士が使用可能である.アドレナリン(エピネフリン)の自己注射を行ってはならない.原則として,患者を臥が位いとし下肢を30cm程度挙上させる.あくまで原則であるため,患者が呼吸困難感を訴えた場合にはわずかに状A①B②90°①安全キャップを外す.②大腿の前外側に垂直に当てて押し付ける.A:アドレナリン自己注射液(エピペンⓇ注射液0.15mg)B:アドレナリン自己注射液(エピペンⓇ注射液0.3mg)*アドレナリンは劇薬であり,取り扱いには十分注意する(誤った使用をすると,過度の頻拍・血圧上昇を招くことがある).図■エピペンⓇの使い方とエピペンⓇ注射液マイランEPD合同会社より写真提供. 急性増悪期の治療にはステロイドパルス療法(intravenous methyl-prednisolone:IVMP)や血漿交換療法(plasma exchange:PE)がある.根本的治療は現在のところないが,疾患修飾薬(disease-modifying drug:DMD)を中心に薬剤の開発が進められている.現在,日本においては,インターフェロンβ(interferon-β:IFN-β)-1b皮下注射薬,IFNβ-1a筋肉注射薬,フィンゴリモド,ナタリズマブ,グラチラマー酢酸塩,フマル酸ジメチルの6種類の疾患修飾薬が使用可能で,今後もさらに増えることが予想される. 対症療法は残った神経症状を和らげるために行う(表14-1). 多発性硬化症は自然経過によって再発と寛解を繰り返す再発寛解型(relapsing-remitting MS:RRMS)と,発病当初から慢性進行性の経過をたどる一次進行型(primary progressive MS:PPMS)に大別される.欧米白人では再発寛解型が80~90%,一次進行型が10~20%を占め,日本人では一次進行型は5%前後とやや少ない.再発寛解型の約半数は15~20年の経過で再発がなくても次第に障害が進行するようになり,二次進行型(secondary progressive MS:SPMS)と呼ばれる(図14-3).このため,早期からの疾患修飾薬による治療の介入が必要性がとされている.自己免疫疾患 免疫とは細菌やウイルスなどの外敵から身を守るしくみである.免疫は作用を発揮する際,白血球や抗体などの「道具」を使って外敵を「退治」している.「免疫がある」というのは,以前出会ったことのある外敵と同じ敵が体内に入ってきた際,より早くて強い反応を起こせるようになった状態のことである.この免疫が誤って自身を攻撃してしまうのが自己免疫疾患である.多発性硬化症はリンパ球が,視神経脊髄炎は抗体が主に関与していると考えられている. C o l u m n2多発性硬化症患者の看護 多発性硬化症は,運動麻痺,感覚障害,運動失調などのさまざまな神経症状を引き起こす.経過によって症状が軽快・消失したり,再発したりする時間的変化を繰り返す. 多発性硬化症は思春期から若年成人の患者が多い.この時期の患者は,いら●より学びを深める! Study・Columnもっと詳しく知りたいときに読むと深い学びにつながります本文の内容に関連するさまざまな知識や情報を紹介他にも・・・本書の特長を公開!本書の特長を公開!  のある図にスマートフォンをかざすと飛び出す画像や動画を見ることができます11

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