nursingraphicus2021
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129サンプルページ国際化と看護3章 グローバルな看護の実際1 グローバル化する医療の現場1.日本の医療機関における外国人診療2.外国人を診る日本の医療機関3.医療通訳とはコラム:日本の「玄関口」検疫所で働く看護師2 病院における外国人への看護と感染症対策の実際1.在留外国人と訪日外国人の特徴と看護2.外来を受診する訪日外国人への看護3.救急搬送されてきた患者への看護4.子どもへの看護5.新生児への看護6.妊産婦への看護7.感染症の疑いのある患者への看護コラム1:日本の病院で外国人が困るケースコラム2:外国人患者の受診で体験したさまざまなケース3 地域における在留外国人への支援の実際1.母子健康支援2.高齢者への支援3.地域における精神看護4.がん患者の訪問看護コラム:日本で生活する外国人技能実習生・留学生の背景と課題4 ‌国内における在留外国人への支援の課題 —医療通訳制度確立に向けた取り組み—1.多様な背景、目的をもって地域で暮らす外国人2.地域における外国人患者を取り巻く現状 3.在留外国人への保健医療の現状改善に向けた支援の課題4.在留外国人の医療に関する課題を解決していくために5 海外における看護の実際1.海外で看護師として働くとは2.ナイジェリアでの母子健康強化プロジェクト3.ハイチにおける日本赤十字社の地域保健事業4.災害現場での看護コラム1:外国人からみた日本の看護コラム2:海外で働く日本人看護師からの手紙6 渡航における感染対策と健康支援の実際1.国境を越える感染症とそのリスク2.渡航における健康支援94導したり、沐浴の具体的な方法について実施指導をしたりする。産科、GCUと地域との継続した関わり 退院後を見据えて、病院からの英語による電話訪問、産後2週健診の予約を勧める。また、母子健康手帳に添付されている出生連絡票を居住地の役所に提出すると、無料で地域の保健師や助産師の新生児家庭訪問を受けられることを説明し、はがきの記載方法や家庭訪問の内容などをきめ細かく説明する。病院から地域へ戻ってからも、乳幼児健診や予防接種などの情報が得られるよう、日本の医療システムや活用方法を合わせて紹介する。サラさんの場合、英語で情報を得られる場所、英語での対応が可能な小児科、ハラール製品を扱うお店を紹介するなど、個別性に応じた情報提供を行うことで、対象者を中心に継続した支援を行うことができる。(4)まとめ看護の関わりのポイント 新生児の看護には、母親への看護が含まれることを念頭に置き、計画を立てる必要がある。今回は、産科とGCUで情報を共有し、母児を同時にケアしていく環境を整えることができた。また、用語集や英語のリーフレットを共有してコミュニケーションをとることで、継続的な関わりが可能となった。 宗教上、禁忌とされていることは、本人のわがままではなく、生き方に通じる重要な価値観であると理解し、最善の方法を探し、配慮することを怠ってはならない。日本にはハラール製品がそれほど潤沢ではなく、豚や動物油脂を含まない粉ミルクを準備することは難しい。サラさんの場合は母乳の分泌が十分にあり、ナウルちゃんに与えることができたが、母乳を与えられない場合の代替案は、各施設で苦慮していると考えられる。早産児への母乳提供について、全国のNICUの25%が他の母親からの母乳の提供を実施しているという調査結果がある2)。母乳バンクの需要は高いと考えられ、整備の準備が急がれる。事例を通して伝えたいこと 母児の分離には、確実なコミュニケーションを行った上で、医師からインフォームドコンセントを受け、プライマリナース*を配置することが、特に外国人への配慮として重要である。また、宗教や習慣など、文化的背景によるケアの配慮が必要な場合がある。言葉だけでなく、文化を翻訳することも必要であると知っておきたい3)。 * 一人の患者を一人の看護師が、入院から退院まで担当すること。p.94733グローバルな看護の実際 阪大病院では外国人患者をサポートするために「国際医療センター」が2013年に新設され、英語と中国語を話すスタッフが、国際医療コーディネーター兼医療通訳者として常駐している。英語であれば医師が直接対応することも多いが、依頼があれば国際医療センターが医療通訳を手配し、患者に正確に伝わるよう配慮している。ただし、医療通訳者の対応が可能な言語は限られているため、希少言語への対応が課題である。地域の中核病院の場合 大学病院に対して、地域の中核病院である「りんくう総合医療センター」(以下、りんくうセンター)は、関西国際空港の対岸に位置し、近隣にホテルも多いことから、訪日外国人患者がよく訪れる病院である(▶図3.1-5)。関西国際空港は人工島にあり、陸地から離れているので騒音妨害もなく、24時間離発着が可能であるため、早朝や深夜にも外国人はやって来る。 りんくうセンターでは、重度の意識障害や交通外傷などの重症例は救命救急センターで、中等度から軽症の患者は救急外来もしくは一般外来で受け入れている。また、航空機内では気圧の変化や乾燥による脱水のために高血圧などの持病を悪化させたり、長時間のフライトで深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)を発症したりするなど、体調を崩すことも少なくない。りんくうセンターは航空機内で発症し、緊急着陸した急病人にも対応しており、年に数回ほど、空港から患者が搬送されてくる。 空港からの患者にはツアーコンダクターや航空会社の職員が同伴して通訳することも多いが、外国語が流りゅう暢ちょうでも、医療に関する内容になった途端に訳せなくなる。そのため、りんくうセンターでは2006年に国際外来(現在は国際診療科)を立ち上げ、医療現場に通訳者を導入し、実地研修を行いながら医療通訳者の育成に携わってきた。帰国子女であり、ブラジルの医学部を卒業した筆者は当初から担当医に抜擢され、10年以上にわたって外国人医療に携わってきた(▶図3.1-6)。りんくうセンターでは常時、英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、フィリピン語、マレー語の対面医療通訳を提供でき、80名以上の登録通訳者がシフトを組んで活動している。これらの通訳者はりんくうセンターが独自の試験でレベル分けしており、ベテランと見習いがペアで活動することによって、お互図3.1-5 りんくう総合医療センター図3.1-6 外国人診療の様子豊富な写真、イラストでイメージ

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