nursingraphicus2021
17/148

での管理が必要となることもある.ECMOとは,カテーテルを通して静脈血を取り出し,ポンプを用いて回路の人工肺に血液を通し,血液を直接酸素化して換気を行い,体内に戻すというものである.患者の肺を介さずに酸素化・換気を行えるというメリットがある.ただし,生理的な呼吸ではない上,侵襲が大きく,出血や感染のリスクも大きくなるというデメリットがある. また,急性呼吸不全を来すものとして,ARDSがある.肺炎や敗血症を契機に発症する症候群である.病態については諸説あるが,炎症で傷つけられた肺胞や毛細血管から血液中の水分やタンパク質が漏出して,肺胞に浮腫を起こすと一般的に考えられている.肺胞に浮腫を来すものの,血流が減少しているわけではないため,V/Qミスマッチ様の呼吸不全の病態を来す.2急性呼吸不全患者の看護 1 急性呼吸不全の患者に対する看護の考え方 急性呼吸不全の患者に対しては,酸素療法や非侵襲的人工呼吸のほか,気管挿管を伴う人工呼吸療法,ECMOなどの侵襲的な治療が行われることがあり,迅速な導入,安全な管理が看護師に期待される.特に,呼吸困難感の緩和,治療効果のアセスメント(悪くなっているのか,良くなっているのか),合併症の予防も含めた安全な管理は,看護師の役割として重要である.また,侵襲的な治療の開始に当たっては,本人,家族の意思決定支援が大切である.現在の状態や,予後に関するわかりやすい説明をするとともに,多職種で話し合うことが重要であり,看護師は患者・家族の代弁者として機能しなければならない. 2 アセスメントの視点重症度のアセスメント意識状態 呼吸不全は全身に影響を及ぼすため,呼吸のみで重症度を判定してはならな ARDSについては,6章2節 p.121参照.脱血送血ポンプ膜型人工肺静脈カニューレ(脱血管)から遠心ポンプで静脈血を脱血膜型人工肺で酸素化図5-2■ECMOのしくみ112臨床の事例で、患者さんとのかかわりやアセスメント・ケアの実際が学べる!3部「看護事例」構成:3部構成で知識とケアを結び付けて理解!COPD患者の急性増悪から在宅療養に向けた看護16事例紹介患 者:Bさん,73歳,男性,身長169cm,体重59kg.60歳まで会社員.妻と二人暮らし,一人娘は近所に家族で在住現病歴:70歳の時に労作時の息切れがあり近医を受診し,COPDと診断された.72歳で在宅酸素療法(HOT)を導入し,酸素流量の処方は,安静時1L/分,労作時2L/分であった.退院半年後に,膿性痰と38.4℃の発熱があり受診し,胸部X線検査で右肺炎を認めて入院となった.前回のHOT導入時は,HOT機器管理や酸素流量調整と,動作要領や口すぼめ呼吸などの呼吸リハビリテーションを受け,習得して退院した.人前で酸素はしたくないとHOTに対してネガティブな思いを抱いていたが,酸素吸入による息切れの軽減を体験した後は,「酸素をうまく使えたらいいと思う」という前向きな言葉に変化し,生活に取り入れようとする意欲がみられていた.しかし,退院後は,指示通りの酸素管理はできていなかった.既往歴:なし喫煙歴:18~62歳まで30本/日,喫煙指数(ブリンクマン指数)*は1320喫煙指数(ブリンクマン指数)1日当たりの喫煙本数×喫煙年数.数値が高いほど,がんの発病率が高い.400以上で肺癌の発病率が高くなる.滴状心心臓が小さく,細長くなること.COPDでは,肺の過膨張によって心臓が圧迫されて生じる.*1アセスメントの視点 Bさんのアセスメントの視点を,表16-1に示す. 1 身体的側面状態身体所見 入院時は,体温38.4℃,脈拍100回/分,血圧136/88mmHg,呼吸回数34回/分で呼気の延長を認め,胸鎖乳突筋の使用がみられた.酸素1L/分流量でSpO2が87%のため,安静時2L/分,労作時3L/分に酸素流量が変更となった.右肺野に水泡音を聴取し,湿性咳嗽,黄色痰が多いが自己喀出できた.少しの動作で息切れがあり,動作時修正ボルグスケール7(かなり強い)(p.23 表2-7参照)であった.チアノーゼ,頸静脈怒張,浮腫はない.検査所見 胸部X線検査では,右肺炎像,滴状心*,胸部CT検査では,両肺野に著明な気腫性変化やブラ,右下葉浸潤影がみられた.血液ガス分析(酸素2L/分)は,pH 7.362,PaO2 71.8Torr,PaCO2 53.7Torr,SaO2 92.6%だった.呼吸機能検査は,FEV1 0.79L,FEV1% 30.5%,%FEV 26.8%,VC 2.59L,%VC 71%だった.血液検査は,WBC 8,000/mL,Cr 0.90mg/dL,BUN 22.1mg/dL,Na 143mEq/L,K 4.7mEq/L,CRP 13.38mg/dLだった.心エコー検査で,肺高血圧症や右心負荷はない.心電図に異常はない.301急性期から回復期、そして地域・在宅まで、切れ目のない患者さんへの看護を学べる。看護解説Q1 橈骨遠位端骨折には,どのような症状や特徴があるか.Q2 橈骨遠位端骨折や二次骨折を予防するために,看護師は患者にどのようなことを説明すればよいか.Q3 骨盤輪骨折による出血には,どのような治療が必要か.Q4 重度の骨盤骨折患者に予測される看護上の問題とは,どのようなものが考えられるか.Q5 大腿骨頚部骨折と転子部骨折の手術方法が異なるのはなぜか.Q6 大腿骨近位部骨折後の骨接合術を受けた患者は,術後の離床を進める上で,どのようなことに気を付ければよいか.Q7 圧迫骨折と破裂骨折の違いは何か.Q8 脊椎圧迫骨折のため硬性コルセットを装着している患者に,医師からコルセットを外してのシャワー浴の許可が出た.看護師はどのようなことに気を付ければよいか.臨床場面で考えてみよう考え方の例1 手関節の疼痛やフォーク状変形を伴うことが多く,骨粗鬆症患者が転倒して受傷することも多い.また,女性に多いのも特徴である.2 骨量を減少させないためや,下肢筋力を低下させないための食事と運動について具体的に説明する.冬の雨や雪の日には,転倒・転落を予防するため不要不急の外出は控え,もし外出する際には滑りにくい靴や道路を選ぶよう説明する(ただし,過度の安静や外出を控えることは下肢筋力の低下や精神機能の低下につながる場合もあるため,注意する).3 骨盤輪骨折では出血性ショックを伴うことが少なくなく,十分な輸液や輸血以外に骨盤を締めるシーツラッピングや骨盤ベルト,創外固定や動脈塞栓術が行われる.創外固定は骨折部を整復固定することによって出血を抑制し,骨盤輪を安定させる.4  ・急性・慢性疼痛. ・体位制限による安楽障害. ・変形治癒に伴う疼痛や身体可動性障害. ・死への恐怖感や予後に対する不安感に伴う睡眠障害. ・異常姿勢や歩行障害のようなボディーイメージの混乱. ・外観の変化に起因する自尊感情や自己概念の低下. ・身体・心理的変化に起因する性的機能の低下などのセクシュアリティー障害. ・知覚・運動障害などのQOLを低下させる後遺障害.5 大腿骨頚部内側には栄養血管が走行しており,骨折して転位が大きくなると血行が遮断され大腿骨頭壊死に陥る.そのため,転位が大きい頚部骨折には人工骨頭または人工関節置換術が行われ,転位の小さい頚部骨折や転子部骨折は骨頭壊死の危険性が低いことから骨接合術が選択されることが多い.6 骨接合術後は人工骨頭置換術に比べて術後の疼痛が強い.動作時や加重による痛みを予防するため,非ステロイド性抗炎症薬などを用いて除痛を図りながら離床を行う.7 圧迫骨折では椎体後方の後壁損傷はみられないが,破裂骨折では後壁損傷がみられる.高齢者の椎体骨折では圧迫骨折とされることが多いが,CTやMRIで検査すると,かなりの割合で破裂骨折が判明する.圧迫骨折は4週間ほどで治癒するが,破裂骨折は偽関節や脊髄麻痺のリスクが高く,注意が必要である.8 脊椎の屈曲や捻転に注意しながら骨折部位の骨癒合を妨げないことが重要である.このため,頭髪や体を洗っているときに前屈姿勢をとらないよう説明し,援助したり,振り返って腰をひねらないよう患者の前に必要物品を準備する.422019/09/17 再校疾患の医学解説と看護解説が続けて掲載されているから、すぐに内容を確認できてスムーズに授業が受けられる臨床での対応をイメージできるよう、疾患の各章末に臨床場面を想定した設問を作成Q1 橈骨遠位端骨折には,どのような症状や特徴があるか.Q2 橈骨遠位端骨折や二次骨折を予防するために,看護師は患者にどのようなことを説明すればよいか.Q3 骨盤輪骨折による出血には,どのような治療が必要か.Q4 重度の骨盤骨折患者に予測される看護上の問題とは,どのようなものが考えられるか.Q5 大腿骨頚部骨折と転子部骨折の手術方法が異なるのはなぜか.Q6 大腿骨近位部骨折後の骨接合術を受けた患者は,術後の離床を進める上で,どのようなことに気を付ければよいか.Q7 圧迫骨折と破裂骨折の違いは何か.Q8 脊椎圧迫骨折のため硬性コルセットを装着している患者に,医師からコルセットを外してのシャワー浴の許可が出た.看護師はどのようなことに気を付ければよいか.臨床場面で考えてみよう考え方の例1 手関節の疼痛やフォーク状変形を伴うことが多く,骨粗鬆症患者が転倒して受傷することも多い.また,女性に多いのも特徴である.2 骨量を減少させないためや,下肢筋力を低下させないための食事と運動について具体的に説明する.冬の雨や雪の日には,転倒・転落を予防するため不要不急の外出は控え,もし外出する際には滑りにくい靴や道路を選ぶよう説明する(ただし,過度の安静や外出を控えることは下肢筋力の低下や精神機能の低下につながる場合もあるため,注意する).3 骨盤輪骨折では出血性ショックを伴うことが少なくなく,十分な輸液や輸血以外に骨盤を締めるシーツラッピングや骨盤ベルト,創外固定や動脈塞栓術が行われる.創外固定は骨折部を整復固定することによって出血を抑制し,骨盤輪を安定させる.4  ・急性・慢性疼痛. ・体位制限による安楽障害. ・変形治癒に伴う疼痛や身体可動性障害. ・死への恐怖感や予後に対する不安感に伴う睡眠障害. ・異常姿勢や歩行障害のようなボディーイメージの混乱. ・外観の変化に起因する自尊感情や自己概念の低下. ・身体・心理的変化に起因する性的機能の低下などのセクシュアリティー障害. ・知覚・運動障害などのQOLを低下させる後遺障害.5 大腿骨頚部内側には栄養血管が走行しており,骨折して転位が大きくなると血行が遮断され大腿骨頭壊死に陥る.そのため,転位が大きい頚部骨折には人工骨頭または人工関節置換術が行われ,転位の小さい頚部骨折や転子部骨折は骨頭壊死の危険性が低いことから骨接合術が選択されることが多い.6 骨接合術後は人工骨頭置換術に比べて術後の疼痛が強い.動作時や加重による痛みを予防するため,非ステロイド性抗炎症薬などを用いて除痛を図りながら離床を行う.7 圧迫骨折では椎体後方の後壁損傷はみられないが,破裂骨折では後壁損傷がみられる.高齢者の椎体骨折では圧迫骨折とされることが多いが,CTやMRIで検査すると,かなりの割合で破裂骨折が判明する.圧迫骨折は4週間ほどで治癒するが,破裂骨折は偽関節や脊髄麻痺のリスクが高く,注意が必要である.8 脊椎の屈曲や捻転に注意しながら骨折部位の骨癒合を妨げないことが重要である.このため,頭髪や体を洗っているときに前屈姿勢をとらないよう説明し,援助したり,振り返って腰をひねらないよう患者の前に必要物品を準備する.422019/09/17 再校15

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る