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23サンプルページアニメーション・動画21本収録!病態生理学疾病の成り立ち ❶(1)痙 攣 痙けい攣れんとは,脳の神経細胞から骨格筋に至る運動神経経路の異常な興奮によって起こる,急激で不随意的な筋肉の収縮をいう.痙攣は筋肉の収縮のパターンにより以下の二つに大別される.①間かん代だい性痙攣:筋肉が収縮と弛緩を交互に,ある程度規則的に反復し,四肢は伸展と屈曲を繰り返す.②強きょう直ちょく性痙攣:筋肉の収縮が持続し,強直してこわばった状態になる.四肢は強く屈曲あるいは伸展したままになる. また,痙攣発作が異常に長く続いたり,短い間隔で頻発する状態を痙攣重じゅう積せき状態といい,認知症などの後遺症が残る,あるいは死に至る,ということもある.(2)てんかん 一方,てんかんは,神経細胞の異常な興奮が一斉に起こることで発症し,意識消失や痙攣などを発作性に繰り返し起こす慢性の病態をいう.通常,脳の中で異常な興奮を起こす部位は患者ごとに決まっており,個々の患者の発作パターンはおおよそ決まっている.てんかん患者は人口の1%弱と推定されている.(1)痙攣の発生機序 痙攣の発生機序は,十分には解明されていないが,おおよそ図2.26-1のように説明できる. 脳の複雑な働きは,神経細胞の発する電気的な信号の伝達で行われている.神経細胞は,普段は非常に弱い電気信号で情報の受け渡しをしている.正常な骨格筋の随意運動は,運動野の神経細胞から発せられたインパルス(情報)が神経線維を伝播して骨格筋に達し,筋収縮を起こすことでなされるが,なんらかの原因によって神経細胞に急激に強い電気的放電が起こると,異常な興奮が支配下の筋群に伝播して不随意的な筋肉の収縮が起こり,痙攣となる(図2.26-2).さらに神経細胞の異常な興奮が全般化し,脳全体の異常な興奮に波及すると,意識障害を伴う強い発作となる.このような神経細胞の異常な興奮は,脳波検査によって異常な波(棘きょく波)として検出される.(2)痙攣をきたす疾患 痙攣の原因は多彩である(表2.26-1).脳腫瘍,脳出血,脳挫ざ傷しょう,皮質形成異常など,脳の病変は神経細胞の異常な興奮を起こすことがあり,痙攣の原因となりうる.こういった脳の器質的異常が原因で発作を繰り返す慢性の病態を症候性てんリンク脳・神経機能障害/感覚機能障害26痙攣とてんかん1定 義2病態生理遺伝的要因痙 攣脳の神経細胞の異常な興奮全身性疾患脳の器質的異常図2.26-1●痙攣の発生機序(概要)228肝炎,慢性腎不全を患わずらっていないか調べる.大酒家であったかや常用薬剤などの聴取も重要である.(3)検 査a. 脳波:てんかん性放電の確認.b. 画像検査(頭部CT,MRI):脳腫瘍,脳血管障害などの器質的異常の検索.c. 血液検査・尿検査:代謝異常などの全身性疾患が背景にないかを調べる.(1)薬物療法 抗痙攣薬により発作をコントロールする.血中濃度の有効域,副作用に注意する(表2.26-3).代謝異常などが発作の背景にある場合は,基礎疾患の治療を行う.(2)てんかん患者と妊娠 てんかん患者が妊娠を望む場合,妊娠前には十分にカウンセリングする.てんかんの重篤度や本人の育児能力などを考慮し,妊娠・出産が現実的かどうか家族を含めてよく話し合った上で,最終的には本人と家族に妊娠を希望するかどうかを決めてもらう.妊娠希望の患者に対しては,抗てんかん薬は催さい奇形性があるため,複数の抗てんかん薬を内服している場合はなるべく単剤とし,妊娠前から葉酸を補充する.妊娠第1期(0〜13週)におけるバルプロ酸ナトリウムの内服は,単剤であっても催奇形性が高いため避ける. 妊娠中は定期的な通院を勧め,胎児モニタリング,抗痙攣薬の血中濃度モニタリングを行う.全般性強直間代発作(大発作)を起こす症例では,切迫流産・早産に注意4ケ ア催奇形性妊娠中の女性を介して,胎児に奇形を起こす性質のこと.一般名/商品名主な副作用頻度は少ないが重大な副作用等,服薬上の注意点フェニトイン/アレビアチンⓇ長期投与例で歯肉増殖,小脳萎縮,多毛中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群*1,血球減少カルバマゼピン/テグレトールⓇ眠気,めまい,発疹,肝障害中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,血球減少,急性腎不全バルプロ酸ナトリウム/デパケンⓇ眠気,めまい,胃腸障害肝障害,高アンモニア血症,血球減少,中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群ゾニサミド/エクセグランⓇ眠気,肝障害,食欲不振中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,血球減少フェノバルビタール/フェノバールⓇ眠気呼吸抑制,急性間欠性ポルフィリン症の患者は禁忌(ポルフィリン合成が増加し症状が悪化する恐れがある)ガバペンチン/ガバペンⓇ眠気急性腎不全,皮膚粘膜眼症候群トピラマート/トピナⓇ眠気,食欲不振,めまい緑内障,腎結石,代謝性アシドーシスラモトリギン/ラミクタールⓇ発疹,めまい,胃腸障害中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,血球減少レベチラセタム/イーケプラⓇ上気道感染,眠気中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,血球減少,希き死し念ねん慮りょ*2*1:スティーブンス・ジョンソン症候群とも呼ばれる.*2:死にたいと思うこと.表2.26-3●主な抗てんかん薬と副作用231痙攣とてんかん2-26p.228p.231p.229※視聴方法は16ページをご覧くださいかんといい,脳に器質的異常を認めないが,発作を繰り返す病態を特発性てんかんという.その他,代謝異常などの全身疾患によって起こるてんかんや,特に幼児にみられる熱性痙攣のような非てんかん性の痙攣がある. てんかんには異常な放電の起きるパターンによってさまざまな発作型があり,痙攣を伴わない発作もある.(3)てんかんの発作型による分類と病態 てんかんは,発作が身体の一部から始まるか身体全体で始まるかによって,部分発作と全般発作に分けられる.さらに部分発作は,意識障害を伴うか否かで単純部分発作と複雑部分発作に分けられる.●部分発作●①単純部分発作(意識障害を伴わない) 脳皮質局所の放電によって生じる発作で,放電が起こった脳の領域の働きに応じた発作症状を示す.意識障害は認めない.発作の症状として,主に以下のようなものがある.a. ジャクソン発作:片側の手や足といった身体の一部からほかの部位に間代性痙攣が拡大する.正常次の細胞体神経細胞でインパルス(情報)が発せられる神経線維伝播大脳運動野軸索終末部骨格筋筋収縮が起きる自分の意思で動かせる随意的な筋の収縮自分の意思で動かせない不随意的な筋の収縮神経細胞インパルス神経線維痙攣なんらかの原因により神経細胞に急激に強い電気的放電が起こるインパルス異常な興奮が伝播図2.26-2●痙攣の発生機序●痙攣のメカニズム〈アニメーション〉症候性てんかん① 脳腫瘍② 脳血管障害:脳出血,脳梗塞,くも膜下出血,脳動静脈奇形,もやもや病など③ 頭部外傷:脳挫傷④ 炎症性疾患:脳炎,髄膜炎など⑤ 変性・脱髄性疾患:アルツハイマー病,ピック病,老人性認知症,多発性硬化症など⑥遺伝性疾患:結節性硬化症⑦先天奇形⑧周産期脳損傷特発性てんかん① 良性ローランドてんかん:遺伝性で良性のてんかんで,5~12歳ごろまでに起こり成人するまでに消失する② 若年性ミオクロニーてんかん:ミオクロニー発作を示す,遺伝性のてんかん③ 若年性欠神てんかん:欠神発作やミオクロニー発作を特徴とする遺伝的素因が示唆されるてんかん など全身疾患に伴うてんかん 低血糖,糖尿病昏睡,肝性脳症,電解質異常(低ナトリウム血症,低カリウム血症など),尿毒症,テタニー,低酸素血症,中毒(薬物,破傷風など)非てんかん性の痙攣熱性痙攣(幼児のひきつけ),解離性痙攣,過呼吸症候群表2.26-1●痙攣の原因229痙攣とてんかん2-26症候→病態生理→アセスメント→ケアと展開し、根拠のある看護を目指すかざして見る!

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