nursingraphicus2021
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27サンプルページアニメーション・動画リーキノロンを投与する.(6)予 防①高齢者やハイリスク群に対する急性呼吸器感染症の予防策として,インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両方接種することが推奨されている.②肺炎球菌ワクチンは,肺炎球菌性肺炎に対する予防に有用と考えられている.米国では65歳以上の高齢者の半数以上がワクチン接種を受けており,カナダやドイツでも急速な普及を示している. 日本では1988年に23価の莢膜型肺炎球菌ワクチンが承認されたものの,あまり普及していなかった.近年,高齢者の肺炎が増加するにつれて,ワクチン接種による肺炎予防の重要性が指摘されるようになってきた.莢膜型肺炎球菌ワクチンは,新型インフルエンザが大流行した2009年の秋に再接種が可能となり,2014年10月には65歳以上の高齢者を対象として定期接種化された.現在では,さらに免疫原性が強いとされる13価の結合型ワクチンも接種が可能となっており,両者を連続接種することが肺炎の予防に有用とされている. 55歳,女性,主婦.現病歴:4,5日前から微熱,咳がい嗽そうがあり,市販の感冒薬を服用したが改善されなかった.次第に咳嗽が強くなり,昨日から黄色痰と38℃台の高熱が出現したため受診した.どのような検査がなされるか. 胸部聴診上,右前胸部に肺雑音を聴取した医師から,胸部X線撮影と採血検査,喀痰検査が指示された.喀痰の採取にあたっては,唾液や食物残渣物の混入,口腔・咽頭常在菌の影響を少なくするため,水道水で数回のうがい後,深い咳とともに滅菌容器へ痰を喀出させた.喀痰のグラム染色鏡検像では多数の白血球とともにグラム陽性の双球菌が認められた.胸部X線写真では右肺に肺炎像が認められた.血液検査では白血球増多とCRP,赤沈値など炎症反応の上昇が認められた.以上から肺炎球菌による肺炎と診断され,入院による安静と点滴,ペニシリン系薬の投与が指示された.臨床場面ケーススタディ脾臓摘出と 肺炎球菌ワクチン食菌や浄化,特異的免疫応答などを担う脾臓が摘出されると,重症感染症を引き起こしやすく,その起炎菌の50~90%は肺炎球菌である.この予防に肺炎球菌ワクチンの接種が勧奨されており,摘脾患者の接種には健康保険が適用される.小児用肺炎球菌ワクチン2013年より13種類の肺炎球菌の成分が含まれている13価肺成人用肺炎球菌ワクチン2歳以上の罹患リスクの高い人と高齢者に対する肺炎球菌ワクチンのこと.23種類の菌の成分を含む23価肺炎球菌ワクチン.侵襲性肺炎球菌感染症肺炎球菌による侵襲性感染症のうち,この菌が通常無菌的である髄液または血液から検出されたもの.小児および高齢者を中心とした発症が多い.小児の場合には,肺炎を伴わず,発熱のみを初期症状とした菌血症が多い.髄膜炎は直接発症するか,肺炎球菌性の中耳炎に続発する.成人・高齢者の場合には,菌血症を伴う肺炎が多い.髄膜炎例では,頭痛,発熱,痙攣,意識障害,髄膜刺激症状などを示す.9本収録!臨床微生物・医動物疾病の成り立ち ❸肺炎球菌:Streptococcus pneumoniae(1)形態・性状 ・グラム陽性の双球菌(図2.1-2). ・重症肺炎球菌感染症の多くは90種以上の血清型のうちの主な10種の血清型によって起こっている. ・多糖体からなる莢きょう膜まくをもつものは強い病原性を発揮する(莢膜が好中球の食作用に抵抗するため).(2)生息部位と感染の成立①肺炎球菌はヒトの鼻や口から体内に入り,鼻腔や咽頭の粘膜に付着,増殖して定着する.定着する期間は1カ月~2年近くとさまざまで,健常人でも鼻腔や咽頭から肺炎球菌が分離される場合がある.通常は何も起こさずに菌が消失するが,一部のヒトで発病する.②インフルエンザなどで気道の粘膜バリアが損傷しているヒトが,鼻腔や咽頭の粘膜に肺炎球菌が定着したヒトの咳により生じた飛沫を吸い込むと,損傷部位に菌が生着して発病する.(3)臨床像①肺炎球菌感染症は呼吸器感染症が好発する冬季や早春によくみられる.臨床像は肺炎や中耳炎,副鼻腔炎などの耳鼻科感染症が多いが,髄膜炎や敗血症,感染性心内膜炎などの重篤な感染症を起こすこともある.②潜伏期間は1~3日で,突然の発熱,悪寒戦せん慄りつなどで発症する.痰を伴う咳,息切れ,胸痛などがみられる.③成人の市中肺炎の約3分の1が肺炎球菌によって引き起こされる.致死率は5%程度で,高齢者ではさらに高率となる.(4)診 断 喀かく痰たんなど病巣由来の検体から肺炎球菌を分離同定する.肺炎球菌は血中へ移行しやすいため,血液培養検査も有用である.肺炎球菌の尿中抗原検査は,有用な迅速診断である.(5)治 療 かつて増加が危惧されていたペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistantStreptococcus pneumonia:PRSP)については,髄膜炎以外の疾患に対して注射薬を用いた場合に,十分に高い病巣内の抗菌薬濃度が得られるため,2008年にCLSI(米国臨床検査標準委員会)によって判定基準が改定され,大部分の菌株がペニシリン感受性肺炎球菌(penicillin-susceptibleStreptococcus pneumonia:PSSP)の範疇に入るようになった. したがって肺炎治療には,原則としてペニシリンを主としたβ-ラクタム系薬など細菌莢 膜菌の細胞壁の外側を取り巻く多糖体が厚い膜状構造を形成したもの.菌体の外層として観察される.敗血症種々の臓器の感染創から微生物が血中に入り,全身に播種される全身感染症.切片の電子顕微鏡写真.莢膜は見えていない.模式図.周りを取り囲んでいるのが莢膜.1μm1μm図2.1-2●肺炎球菌の形態(双球菌)肺炎と日本人の死因これまで日本人の死因第4位であった肺炎は,2011年には脳卒中を抜き,悪性新生物,心疾患に次いで第3位になった.85歳以上の高齢者が肺炎で死亡するリスクは若年と比べ高率で,感染性心内膜炎心臓の内膜や弁膜に細菌の固まりができ,全身に菌が流出する重症感染症.2宿主の臓器・組織別にみる感染症と病原体インフルエンザウイルス:Influenza virus(1)形態・性状 ・多形性のRNAウイルス. ・エンベロープをもつ. ・抗原性の違いからA・B・Cの3型に分けられるが,流行的な広がりをみせるのはA型とB型である. ・ウイルス粒子の表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖タンパクがあり(図2.1-1),A型のHAには16種の亜型,NAには9種の亜型がある.組み合わせによりH1N1,H3N2などと表す. ・感染するとヒトの鼻腔や咽頭の粘膜表面の上皮細胞にHA部で結合し,細胞内へ侵入・増殖する.空気中や土壌中などの環境では増殖できない.(2)抗原変異と流行性①A型インフルエンザは,毎年のように同一の亜型内でわずかに抗原性を変化させ,ヒトの免疫機構から逃れながら流行し続ける(連続抗原変異).連続抗原変異によりウイルスの抗原性の変化が大きくなれば,以前にA型インフルエンザの感染を受けて免疫ができている人でも,再び別のA型インフルエンザに感染しやすくなる.②さらにA型インフルエンザは数年から数十年単位で,突然別の亜型に変わることがある(不連続抗原変異).これは新型ウイルスの登場を意味し,人々は抗体を保持していないため大流行することになる.これまでにもスペインかぜ,アジアかぜ,香港かぜ,ソ連かぜなどが大流行した.不連続抗原変異を続けながら,現在ではA型の2種類(H1N1,H3N2)とB型の3種類のウイルスが世界共通の流行株かぶとなっている.③2003年末以降,東南アジアを中心とした地域で,トリの間に鳥インフルエンザが流行し,さらに高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染者および死亡者も報告されている.2009年には,メキシコに端を発したブタ由来インフルエンザA/H1N1(新型インフルエンザ)によるパンデミックが世界規模で発生した.このブタ由来インフルエンザA/H1N1は,ヒトと鳥類,および北米そしてアジアとヨーロッパ(ユーラシア)のブタのインフルエンザウイルス遺伝子4種類が混じり合う1呼吸器感染症ウイルスエンベロープと アルコール消毒エンベロープはある種のウイルス粒子にみられる膜状構造で,大部分が脂質からなるためエタノールや有機溶媒,石けんなどで容易に破壊される.エンベロープをもつウイルスは,これをもたないウイルスに比べ消毒用アルコールで不活化されやすい(p.209表5.2-5参照).学習目標●インフルエンザはインフルエンザウイルスによる疾患であることを理解できる.●市中感染の代表的な肺炎球菌による肺炎を理解できる.●呼吸器感染症の分類を理解できる.●「かぜ症候群」は,さまざまなウイルス感染症であることを理解できる.学習する臨床微生物ウイルス●インフルエンザウイルス Influenza virus細  菌●肺炎球菌 Streptococcus pneumoniaeKeywordインフルエンザ,かぜ症候群,肺炎インフルエンザと 鳥インフルエンザ鳥インフルエンザはトリへの病原性を獲得したインフルエンザウイルスによる疾病.通常トリからトリにしか感染しないが,まれにヒトへ感染することがある.赤血球凝集素(HA)ノイラミニダーゼ(NA)RNA100nmエンベロープ図2.1-1●A型インフルエンザウイルス (模式図)34p.34p.38p.37病原体を模式図でイメージ※視聴方法は16ページをご覧くださいリーキノロンを投与する.(6)予 防①高齢者やハイリスク群に対する急性呼吸器感ワクチンと肺炎球菌ワクチンを両方接種する②肺炎球菌ワクチンは,肺炎球菌性肺炎に対すでは65歳以上の高齢者の半数以上がワクチでも急速な普及を示している. 日本では1988年に23価の莢膜型肺炎球菌ワクしていなかった.近年,高齢者の肺炎が増加炎予防の重要性が指摘されるようになってきインフルエンザが大流行した2009年の秋に再歳以上の高齢者を対象として定期接種化されとされる13価の結合型ワクチンも接種が可能とが肺炎の予防に有用とされている. 55歳,女性,主婦.現病歴:4,5日前から微熱,咳がい嗽そうがあり,市販の次第に咳嗽が強くなり,昨日から黄色痰と38℃台のどのような検査がなされるか. 胸部聴診上,右前胸部に肺雑音を聴取した医痰検査が指示された.喀痰の採取にあたっては咽頭常在菌の影響を少なくするため,水道水で菌容器へ痰を喀出させた.喀痰のグラム染色鏡臨床場面ケーススタディ感染症が現れる状況や症状を事例で学習できる

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