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47サンプルページアニメーション・動画16本収録!公衆衛生健康支援と社会保障 ❷ 2011(平成23)年3月11日の東北地方太平洋沖地震とその後の津波により引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所事故により,環境中に大量の放射性物質が放出され,飲食品の放射能汚染,低線量放射線被曝に対する不安など,放射線・放射能問題が公衆衛生の課題となった. 放射線・放射能の歴史は,表16-6に示すように,1895年のレントゲン博士によるX線の発見に始まり,放射能の発見など,いずれもノーベル賞につながる画期的な発見が短期間で積み重ねられた.その後瞬く間に,医学利用を含めた幅広い利用が世界中で試みられた.しかしその過程では,早期より放射線障害も報告されている.そのため比較的早い段階から,放射線防護について国際会議をはじめとした系統的な取り組みも開始され,1928年の国際X線ラジウム防護委員会を母体に,1950年に国際放射線防護委員会(ICRP)が組織された.放射線防護に関する国際機関の役割としては,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が科学論文をレビューし科学的知見を取りまとめ,これを受けてICRPが防護の枠組みを定め,各種勧告,ガイダンスを発行している.国際原子力機関(IAEA)は国際基本安全基準(BSS)など8放射線・放射能1放射線・放射能の歴史チェルノブイリ 原発事故旧ソ連キエフで1986年4月26日に発生した原発事故.消火活動などに従事した人から30数名の急性放射線症候群による死亡が報告されている.さらに晩発性影響として,事故初期の放射性ヨウ素で汚染された乳製品などの摂取で小児甲状腺癌の増加が報告されている.表16-6_放射線の発見と原子力防災上転機となった事故・災害等の歴史1895年1896年1898年1902年1904年1914年~1915年1925年1927年1928年1945年1950年1954年1955年1963年1968年1971年1979年3月1986年4月1995年1999年9月2001年9月2011年3月レントゲンによるX線の発見(1901年最初のノーベル物理学賞受賞)ベクレルによるウランの放射能の発見 Grubbe(米):手に皮膚炎,Edison(米):眼痛,Daniel(米):脱毛症,Marcuse(米):脱毛症キュリー夫妻によるラジウムの発見X線による慢性潰瘍に起因する発がんラドンによる肺障害の報告(チェコスロバキア)夜光塗料工場でのラジウム中毒(米)「X線技術者の防護に関する勧告」(英)第1回国際放射線会議(ロンドン)Muller,放射線による突然変異増加を観察国際X線ラジウム防護委員会広島・長崎に原子爆弾投下国際放射線防護委員会(ICRP)ビキニ環礁水爆実験に伴う第五福竜丸被曝事件→放射線医学総合研究所設立(’57)原子力基本法国内初の原子力発電(東海村・動力試験炉JPDR:Japan Power Demonstration Reactor)の初発電英国EMI社G. N. HounseldによってX線CT発明,72年にCT装置発表(79年ノーベル賞を受賞)東京電力福島第一原子力発電所1号機が営業運転開始(震災後2012年4月20日付で廃止)スリーマイル島原発事故→「原子力施設等の防災対策について」〈防災指針〉(’80;原子力安全委員会)チェルノブイリ原発事故     →「緊急時医療活動マニュアル」(’86)阪神淡路大震災,地下鉄サリン事件,もんじゅナトリウム漏洩事故→(防災関係法体系の見直し作業開始)東海村JCO臨界事故→「原子力災害特別措置法」(’99),「防災指針」改訂(’98~’03)          「緊急被曝医療のありかたについて」(’01)米国同時多発テロ→「国民保護法」(’04)(ただし核・放射能テロに関係した防災指針変更は行われない) NCRPやIAEAが核・放射能テロ対策と連動した新勧告・ガイドラインを策定 ICRP 2007年勧告東日本大震災・福島原発事故→「防災基本計画」原子力災害対策編の修正公表(’12),原子力規制委員会設置(’12)              「原子力災害対策指針」策定(’12)表16-6●放射線の発見と原子力防災上転機となった事故・災害等の歴史282ども提示している.主な指標を以下に示す.①出生率:単位人口(人口1,000対)に対する年間出生数.②乳児死亡率:単位出生数(出生1,000対)に対する生後1年未満の死亡数.③新生児死亡率:単位出生数(出生1,000対)に対する生後28日未満の死亡数.④早期新生児死亡率:単位出生数(出生1,000対)に対する生後7日未満の死亡数.⑤死産率:出産(出生+死産)1,000に対する死産数(妊娠満12週以後の死児の出産).⑥周産期死亡率:単位出産数(出生+妊娠満22週以後の死産)1,000に対する妊娠満22週以後の死産数と早期新生児死亡数の和.⑦妊産婦死亡率:出産(出生+死産)100,000に対する妊産婦死亡数.⑧再生産率:出生率を再生産という立場からみた指標で,出産可能な女子人口の出産力を表し,3種類の指標が用いられる. 粗再生産率(合計特殊出生率):15〜49歳の女子の年齢別出生率を合計したもので,一人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に産むとしたときの子どもの数. 総再生産率:母の年齢別出生率を女児だけについて合計したもの. 純再生産率:総再生産率にさらに,母親世代になるまでの死亡を見込んだもの. この純再生産率が1(合計特殊出生率では2.1程度)以上であれば,将来人口は増加し,1を下回ると減少する.⑨婚姻率:人口1,000に対する婚姻の割合.出生数合計特殊出生率厚生労働省.人口動態統計.300(万人)2502001501005004.321.582.141.571.261.441.4520162010194719551960196519701975198019851990199520002005(年)543210第1次ベビーブーム(1947~49〈昭和22~24〉)年最高の出生数2,696,638人ひのえうま1966(昭和41)年1,360,974人第2次ベビーブーム(1971~74〈昭和46~49〉)年最高の出生数2,091,983人1.57ショック1989(平成元)年合計特殊出生率1.572005(平成17)年出生数1,062,530人最低の合計特殊出生率1.262016(平成28)年出生数976,978人合計特殊出生率1.442015(平成27)年出生数1,005,677人合計特殊出生率1.45出生数合計特殊出生率図4-13●出生数および合計特殊出生率の年次推移主な保健指標①出生率②死亡率③乳児死亡率④新生児死亡率⑤死産率⑥周産期死亡率⑦合計特殊出生率⑧婚姻率⑨離婚率714公衆衛生のものさし重要な統計情報を掲載同様に,患者自身がマスク(通常のマスクでよい)を着用して咳による飛沫の発生を防ぐのが効果的である.●接触感染● 患者との接触によって感染するもの.病原体を含む患者の血液や体液が皮膚や粘膜に付着して体内に侵入し感染が成立する直接的な接触と,手すりやドアノブなどから患者の体液が手に付着し眼や鼻の粘膜を通して体内に侵入するような間接的な接触がある. 伝染性膿のう痂か疹しんなどの皮膚疾患や流行性角結膜炎などの眼科疾患が代表的であり,病院ではMRSAやVREなどの薬剤耐性菌の主要な感染経路となっている.接触感染の危険性のある医療や介護処置などを行う際には,使い捨ての手袋やマスク,ゴーグルなどを着用して感染を防止する.間接的な接触の予防には,手洗い(手指の洗浄)も効果的である.性行為やキスによって感染する経路も接触感染に分類されるが,性行為あるいは性的接触によって感染する疾患は性感染症と呼ばれている.●血液感染● 血液中に含まれる病原体が,輸血や血液製剤を介して感染するもの.過去の輸血などで感染したB型・C型肝炎などが代表例である.医療現場での針刺し事故によって感染することもある.●昆虫(節足動物)媒介感染● 昆虫などに刺され,その刺し口などから病原体が侵入して感染が成立するもの.蚊が媒介するマラリアや日本脳炎などが代表例である.(3)感受性宿主 感受性宿主(感受性をもった個体)とは,病原体が侵入先の宿主(人や動物)の中で増殖しやすく,その病原体による感染症が発症しやすい宿主のことである.人間がかかる感染症の感受性宿主は人(ヒト)である.例えば,感染性胃腸炎の病原体の一つであるノロウイルスの感受性宿主は人だけであり,犬や猫などは(感受性がないので)感染しない.この要素を遮断して感染症を予防する方法が「予防接種」であり,病原体に対する感受性宿主の免疫力を高める目的で行われる. 特定の感染症がある一定の地域(集団内)で多発する状態を流行(エピデミック)と呼ぶ.流行の範囲や規模などの違いから,地方流行(エンデミック)および世界的大流行(パンデミック)という用語も使われる.エンデミックは,限られた地域内で常在的にある疾患が流行を繰り返す状態を指し,パンデミックは流行の範囲が特定の国や地域を越えて地球規模に及ぶ場合を指す.最近のパンデミックの例としては,2009(平成21)年の新型インフルエンザ(A/H1N1)がある. 感染症の流行に関連して最近は,アウトブレイク(outbreak)という用語もしばしば使われる.一般的にアウトブレイクは「集団発生(または集団感染)」と訳され,「一定期間内に,特定の集団内で,感染症の患者または感染者が通常予測されるよりも多く発生した状態」のことを指す.ただし,アウトブレイクには「勃発,突然の発生」4感染症の流行MRSAメチシリン耐性黄色ブドウ球菌.methicillin-resistant staphylococcus aureusの略.メチシリンをはじめとする多くの抗生物質に耐性を示す.黄色ブドウ球菌は人の常在菌の一つであり,健康な人の鼻腔や皮膚などからも検出されることがある.免疫(抵抗力)の衰えた患者などが感染すると,化膿性疾患や肺炎,敗血症などを引き起こす.VREバンコマイシン耐性腸球菌.vancomycin resistant enterococciの略.強力な抗生物質バンコマイシンにも耐性をもつ.エボラ出血熱の アウトブレイク感染力が強く,致死率の高いエボラ出血熱は,1970年代からアフリカ西部や中央部で感染例が報告されていた.2014年,ギニア,リベリアなど アフリカ西部でアウトブレイクを起こして感染が拡大し,ヨーロッパ,アメリカでも患者がみつかった.感染症に対し,国家の枠を超えた対策が必要とされている.208近年の重要なトピックスも掲載難病対策のあゆみ/システム・制度(法との関連・計画)/主な難病疾患の療養者の特徴と支援のポイント第12章●健康危機管理と災害健康危機管理/災害時における保健師の活動第13章●感染症対策感染症に関する基本的な知識/感染症対策のシステム/主な感染症の特徴と最近の動向第14章●学校保健児童生徒期の健康状態/学校保健の概要第15章●産業保健 産業保健の目的と特徴 /労働衛生関係法令の概要/職業性疾病の概要/産業看護職の活動第16章●環境保健環境保健の総論/食品保健/大気汚染/廃棄物/地球環境の問題/水道/居住環境/放射線・放射能第17章●国際保健国際保健/グローバルヘルスの定義とは/世界の健康課題への取り組みの歴史/今日の世界の健康課題/諸外国の公衆衛生※2020年10月現在の情報です。目次等は予告なく変更する場合があります。 ご了承ください。p.282p.71※視聴方法は16ページをご覧ください

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