nursingraphicus2021
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53サンプルページアニメーション・動画看護学概論基礎看護学 ❶11本収録! 実践科学は,理論と研究と実践の3本の柱からなるといわれる(図1-1).理論とは見方や考え方を示す地図のようなものであり,看護師が人々を援助できるように,看護場面で生じる複雑な出来事の関係を整理する助けとなる.研究とは疑問に答えたり,問題を解決したりするために,組織立った科学的方法を用いて行う系統的な探究である. 図1-1は,理論と研究および実践が相互に円環的に関係し合っていることを示している 10).看護実践の中で,臨床的疑問に関して研究が行われ,その成果を積み重ねることで看護に役に立つ知識や理論が生成される.それらの知識や理論を実践で活用することで,その理論の妥当性が検証され,修正されたり,時には妥当性がないということが明らかになったりする. このように,看護の現場における研究を通して得られた結果(知識や理論)は,実際にケアの場面で活用(検証)され,さらに新しい知見を得て,精選されたものになる.2理論,研究,実践理 論実 践研 究▲▲▲▲▲▲図1-1●実践科学の3本の柱(1)看護教育制度 看護実践のための理論や研究に基づいた知識や技術を学ぶために構造化されたものが,看護教育のカリキュラムである. 現在の看護教育制度(図1-2)には,看護師,保健師,助産師の資格を得るためのいくつかの方法が用意されている.●看護師● 看護師資格を得るためには,①4年間の大学教育,②3年間または2年間(進学課程)の短期大学教育,3看護実践のための教育の準備251看護への導入理論・研究・実践の関係を学ぶ例 整形外科病棟で,手術後の安静臥床が必要な患者に褥じょく瘡そうが生じ,潰かい瘍よう形成後,感染で死亡するという出来事があった.そこで,褥瘡を予防するためには,どのくらいの間隔で体位変換が必要かを明らかにする研究が行われた. 背中の手術後,安静臥床を要する成人男性(20~50歳)を対象とした研究では,2時間ごとに体位変換すれば,皮膚の発赤が消失し,褥瘡を生じる危険性はないという結果であった.しかし,同じ手術でも高齢者(70~85歳)を対象とした場合には,1時間ごとの体位変換が必要であるという結果となった. この二つの研究結果から,壮年期の対象者では2時間ごとの体位変換で褥瘡予防が可能であるが,高齢者の場合は1時間ごとに行う必要性が示唆された.今後,皮膚の状態,栄養状態などと,どのような関連があるかを研究することで,さらに褥瘡と体位変換の頻度との詳しい関連を知ることができる.(1)保健医療に関わる国際機関 国際連合のうち国際保健協力に大きく関与している機関としてはWHO(World Health Organization:世界保健機関),UNFPA(United Nations Population Fund:国連人口基金),UNICEF(United Nations Children’s Fund:国連児童基金/ユニセフ),UNAIDS(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS:国連合同エイズ計画)などがある.(2)アルマアタ宣言 1978(昭和53)年,カザフスタン(旧ソビエト連邦)のアルマアタで開催されたWHOとユニセフの合同会議は,「西暦2000年までにすべての人に健康を(Health for All:HFA)」という目標を定め,そのための世界的な戦略としてプライマリーヘルスケア(PHC)という理念を打ち出した.PHCは,健康の向上には医師や医療の専門家による高度で高額な治療よりも,地域住民の自立・自己決定に基づく公衆衛生の改善や疾病の予防普及が効果的であるとして,その活動を推進していくための戦略である.表14-3にプライマリーヘルスケアの5原則と基本的活動項目を示す.近年,日本の医療制度改革においても国民・患者の自己決定が重視されているが,プライマリーヘルスケアの概念はこれに先行していたものといえる.(3)ミレニアム開発目標から持続可能な開発目標へ 2000(平成12)年にニューヨークで開催された国連ミレニアムサミットにおいて,189の加盟国は21世紀の国際社会の目標として,国連ミレニアム宣言を採択した.この宣言では,平和と安全,開発と貧困,環境,人権とグッドガバナンス(良い統治),アフリカの特別なニーズを課題として挙げ,自由,平等,団結,寛容,自然の尊重,責任の共有が国際機関の基本的価値であることを確認した. ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)では,八つの大目標について2015年までの数値目標が示され,貧困対策として史上最大の成果を上げた. ミレニアム開発目標の成果を踏まえ,2015(平成27)年に国連は持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を決議した.持続可能な開発目標には,引き続き貧困撲滅を中心課題として,経済成長,教育,保健医療,環境保護に関する2030年までの17項目の行動目標が掲げられている.(4)WHOの役割 WHOの役割としては,①自然災害や紛争時の緊急人道援助,②疾病・感染症に関する研究の推進と新しい知識の普及,③保健医療に関する条約・協定・規則の提案と3国際機関の動き→プライマリーヘルスケアについてはp.85も参照.→ミレニアム開発目標の達成状況についてはp.293を参照.→SDGsについてはp.294を参照.5原則 1. 公平/平等性…ヘルスケアはそれを必要とするすべての人間にとって入手可能かつ適正であり,無視される集団があってはならない. 2. 地域共同体/住民の主体的参加…受益者としての存在だけではなく,計画・意思決定者として,また実施過程においても地域共同体の主体的参画が不可欠. 3. 予防重視…治療より予防普及・健康促進活動を重視.経済性の観点からも重要 4. 適正技術…ヘルスケアに用いられる資機材及び手法,技術はひろく受容された適正なものでなければならない(例;ORS:Oral Rehydration Solution 経口補水液). 5. 複数の分野からの複合的/多角的アプローチの必要性…人間の衛生状態は水供給,教育等多岐にわたる要因と複合的に関係しているため,それら保健以外の社会的側面からのアプローチも必要である.基本的活動項目 1.教育 2.風土病の対策 3.公衆衛生の向上と安全な水の供給 4.母子保健活動の推進と家族計画の普及 5.予防接種 6.栄養 7.一般的な病気の治療 8.必須医薬品の供給表14-3●PHCの5原則6)と基本的活動項目26714国際看護国際看護も掲載看護のマネジメント/質の高い看護ケアを行うために/医療安全への取り組み/病院組織とリーダーシップ/統合していく力第13章●災害看護の基礎災害看護の必要性/災害の定義/災害の分類/災害医療と災害拠点病院/災害看護とは/災害サイクルと必要とされる看護/災害看護に必要な知識と技術/災害と法律/コラム:災害と看護—未来の看護師たちへ—第14章●国際看護国際保健・看護とは何か/開発途上国の健康問題/国際機関の動き/日本の実施する国際協力活動/国際協力を行う看護職に求められるもの第15章●これからの看護の課題と展望看護に求められる教育/専門職としての看護組織/今後の課題資 料●健康の増進疾病の予防健康の回復苦痛緩和専門性・責務専門性に基づき倫理原則にかなったケア倫理の原則自律の原則誠実の原則善行の原則無害の原則正義の原則忠誠の原則図6-4●看護専門職の責務を遂行するための倫理原則活用モデル自律の原則(autonomy)人を自律した存在と捉え,個人がみずから選択した計画に基づいて自分の行為を決定し,実行する自由を認めること.この原則によれば,対象者は自律した存在として扱われるが,対象者の選択が本人にとってよいことではないと考えられるような場合は,対象者の利益と不利益を考慮し,擁護者として対象者にとって最もよいと考えられる対応をとることもありうる.誠実の原則(veracity)真実を告げる,嘘を言わない,あるいは他者をだまさないこと.人に対して正直であることは,対象者との信頼関係を築く上での大前提であると同時に,対象者が自律的に意思決定を行うための基盤でもある.善行の原則(bene cence)善を行い,対象者が利益を得られるように支援すること.利益とは対象者が受ける恩恵全般を含んでいる.無害の原則(non-male cence)害を避けること,もしくは加わるリスクを防いだり減らしたりすること.害とは単に身体的な意味だけでなく,心理的な意味や道徳的権利が脅かされることも含んでいる.正義の原則(justice)適正かつ公平な資源の配分をすること.資源とは金銭・経済的なことだけでなく,医療や看護そのものも含まれる.忠誠の原則( delity)守秘義務や約束を守ること.対象者と看護師の信頼関係に内在する義務である.トム・L・ビーチャムほか(1997)とサラ・T・フライほか(2010)を参考に作成.表6-2●倫理の原則看護者の責務(専門性)価値(原則)の対立健康の増進疾病の予防健康の回復苦痛緩和Aの原則Bの原則Cの原則相反した行動ジレンマ状況ケア方法?原則に基づいた看護者の行動原則に基づいた看護者の行動図6-5●価値の対立(ジレンマ状況)わかりづらい内容を図でイメージp.25p.267p.135※視聴方法は16ページをご覧ください

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