63サンプルページアニメーション・動画5本収録！成人看護学概論成人看護学 ❶復してほしいと自他ともに願い，医学的な診断がつかなくても具合が悪い（illness）状態になれば，家事や育児，職場での仕事などの役割を免除され，休養をとるのが当然とされる．特に，医学的に疾病（disease）と診断されれば，診断書の提出等によって休業や休職が可能となり，職場での身分保障や給与も保証される社会のしくみがある．したがって成人には，具合が悪い状態，つまり病人になれば回復のために努力することや，それ以上悪くならないように行動することなどが社会的にも期待される．医療社会学者のパーソンズ（Parsons, T.）は，このように病人にも社会的役割が求められることに着眼し，これを病人役割（sick role）と呼んだ． 現代社会では一般に，病気（illness）を疑った場合，疾病（disease）であるかどうかの医師の診断を求める．この疾病に関する医学的知識の多くは，成人の身体を生物として成熟した個体とみなす見方（生物医学モデルと呼ばれる）に基づいて明らかにされている．言い換えれば，医学的知識として示されるヒトという生物の身体に関する知識の大半は，成人の身体について述べられていると言ってもよいであろう（図3－2）．看護学教育ではこれらの医学的知識のうち，身体機能の正常な状態を「解剖生理学」「形態機能学」「人体の構造と機能」といった科目や科目群で示しており，病人役割①病気に対する責任の免除，②通常の役割遂行からの一時的免除，③病気を受け入れ，回復に努力する責務，④専門家の援助を求め，それに協力する責務． 2ヒトという生物として成熟した個体小 児老 年未 熟衰 退欠けた出っ張ったゆがんだ悪い部分さまざまな要因成 人成 熟生物として自然な経過（natural course）疾病（disease）：医学的な治療が必要な状態図3－2●身体機能の変化53能の特徴と看護成人の特徴を踏まえた看護を解説第16章●自己効力自己効力とは／事例で考える自己効力理論第17章●ヘルスプロモーションヘルスプロモーションとは／ヘルスプロモーションの目標／ヘルスプロモーションのプロセスと方法／事例で考えるヘルスプロモーションと看護※視聴方法は16ページをご覧くださいp.128めの短期的な目標を設定すると，現在実践していることの意味が明確となる．●計画を立てる● ここでは自分の目標を達成するために効果がありそうな具体的な方法を，できる限り多く患者に考えてもらう．患者によってはさまざまな方法を試みたが失敗を繰り返していることもあり，その場合には指導者がいろいろな具体的方法を提案することになるが，「こんな方法でうまくいった人もいますが，それはあなたにとっては役立ちそうですか？」「こんな方法もありますが，あなたには合いそうですか？」というように選択肢の一つとして提案するのであって，その方法を患者に求めている印象を与えないように配慮する．患者にとって実現可能な計画であるかどうかを患者に考えてもらうためには，例えば，「これはあなたにできそうなことですか？」「実行する決心はついていますか？」というような発問をするとよい．計画を立案するときには，具体的であることが実行を可能にする．つまり「毎日運動をする」と設定するよりは， 「1日に30分間連続して歩く」としたほうが，何をすればよいか，実施したか否かが明確になる．●結果を評価する● 患者は自分が立てた目標や計画が，成功したかどうかに関心をもちやすい．しかし，どのような具体的方法や技術が自分に適しているのか，あるいは適していないのかを確認する機会とすることが望ましい．たとえ成功しなかったとしても，患者はその理由や問題点を考えることによって新たな情報を得たり，自分自身について多くを学び，次の行動に活用していくことが可能である点で意味がある．指導者は，患者が結果に至る過程を振り返られるように，例えば，「今回と同じようにしようと思うのはどんなことですか？ 次はやり方を変えたいと思うのは何ですか？」「思った以上にできましたか？ それともできませんでしたか？」などの問いかけをする．3医学モデルとエンパワメントモデルの実際事例岡崎さん．49歳男性．大手自動車メーカーの総務部に所属している．2年前に職場の定期健康診断で肝機能異常を指摘され，受診の結果，数年前の輸血時の感染によるC型肝炎と診断された．診断された直後は落ち込んでいたが，好きだったお酒も断ち，食事療法の学習会に参加し，生活を少しずつ変えた結果，肝機能も徐々に改善し「自分がこんなにできるとは思わなかった」と自信もみえた． しかし1カ月前，営業部への異動辞令があり，現在は朝から夜遅くまで営業活動で忙しい日々を過ごしている．食事も不規則となり，休養する時間もとれないことに加えて，客との人間関係でストレスを感じることが多くなった．妻は「毎日イライ●医学モデルとエンパワメントモデル〈動画〉コンテンツが視聴できます（p.2参照）128●従来の医学モデルによるアプローチ●●エンパワメント・アプローチ●ラして，とても疲れているようで見ていられない」と言っている．岡崎さんは，「今まで頑張ってきたことが水の泡だ．今のような生活を続けていたら肝硬変になってしまう」と，自信も意欲もなくしているようにみえる．●看職場が異動になったそうですね．●岡ええ，新しい職場では前のような生活ができなくなりました．●看どうしてできないのですか？●岡時間は不規則だし，食事は外食ばかりでつき合いがあって禁酒なんてなかなか守れないですよ．それに同僚や得意先の人たちと一緒にいる時間も多くて，気を遣って疲れます．●看外食だからって食事療法ができないってことはないですよ．外食でも栄養価の高い食事や間食に果物をとるなどして，努力している患者さんはたくさんいますからね．まだ異動して間もないですから，いろんなことがストレスになるでしょうね．もう少し時間が経てば慣れてきますよ．●岡自分でも今が一番つらい時期だということはわかっています．でも打ち合わせを兼ねて食事をすることも多いから，自分だけほかの場所で食べるなんてできないし，病気のことを同僚に知られるのも嫌ですしね．みんなに合わせるしかないでしょう．●看まだあきらめるのは早いですよ．何かほかの方法があるでしょう．例えば外食するときのお店は岡崎さんが決めるとか．●岡それはちょっと無理だと思います．私だって前のようにできればいいと思っていますよ．ほかのよい方法も思いつかないし……．●看大変なことはわかりますが，このままでは肝臓に負担がかかって肝硬変になってしまいますよ．せっかく今まで頑張ってきたのですから，もう少し努力しましょうよ．●岡……．●看職場が異動になったそうですね．●岡ええ，新しい職場では前のような生活ができなくなりました．●看ずいぶんお困りのようですが，もう少し詳しく話していただけますか？●岡時間は不規則だし，食事は外食ばかりで，タンパク質やビタミンを多く摂るなんて守れませんよ．それに人と一緒にいる時間も長くて，気を遣って疲れます．●看そうですね．職場が変わるといろいろと大変ですよね．今一番お困りのことは何でしょう．●岡営業の仕事が嫌だっていうことじゃなくて，こんな生活をしていたら肝硬変になってしまわないかと思っているのです．もともと器用な人間じゃないし，適応力だってないから……．●看そんなことないと思いますよ．初めて肝炎と診断されてから，食事療法や薬物療法もきちんとなさっていたではないですか．そのときはどんな感じがしていたのですか？●岡そのときはとにかく病気に絶対負けないと思って自分に挑戦している感じでしたね．血液検査で肝機能が良くなっていると言われたときには，うれしかったなあ．●看そうですね．頑張っていらっしゃいましたよね．またそうなるためにしてみたいことがあるでしょうか．●岡本当は食事療法も続けたいですよ．でもあまりにも環境が変わりすぎて，その気持ちが萎なえてしまうのです．1296学習の特徴と看護おとなの学びを具体的に展開かざして見る!p.53
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