nursingraphicus2021
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65サンプルページアニメーション・動画18本収録!健康危機状況/セルフケアの再獲得成人看護学 ❷痛を感じると,「異常を知らせるサイン( sign )」として受け止め,助けを求めることを学んでいる.小さな傷であれ,それが「痛み」を伴うからその傷があると気づき,悪化するのを食い止めることができる.苦痛は人間にとって,必ずしも悪い面だけをもっているのではない.しかし,苦痛があれば,人はそれが異常だと認知するので,「この痛みはどうなっていくのだろう」「この苦しみはいつまで続くのだろう」と不安を抱く.また,苦痛が長く続いたり,繰り返し生じたりする場合は,「こんなに痛ければもう仕事も何もできない」というような社会的な苦痛や,「こんな状態なら死んだほうがましだ」というような自分の存在そのものを脅かされるような実存的(spiritual)な痛みまでも引き起こしていくことが,慢性疼痛ケアや終末期看護の領域で指摘されている 1) .また逆に,緊張して腹痛が起こったり,仕事がうまくいかない苦悩から眠れず頭痛が引き起こされたり,自分などいないほうがましだと苦悩していると息苦しくなったりといったように,心理的苦痛,社会的苦痛,実存的苦痛は,身体的苦痛と密接に結びついている.このように,人の苦痛は,「全人的苦痛」として身体的,心理的,社会的,そして,実存的苦痛を関連づけて理解することが重要である .一人ひとりがセルフケアしていることは多種多様にあり,そのすべてを看護問題とすることは難しい.健康危機状況では,①苦痛に関するセルフケア,②身体機能悪化に関するセルフケア,③生活行動変更に関するセルフケア,④心理・精神的混乱に関するセルフケア,⑤家族や重要他者の不安や負担に関するセルフケア(図の赤い部分)が困難になってセルフケア不足となりやすいと考えられ,これらについて看護問題として対応することが重要である.また,これらのセルフケア不足は健康レベルによって,さまざまなバリエーションがある.セルフケア全体がバランスのよい状態,セルフケア全体がゆがんでいる状態,特定方向のセルフケア不足がある状態,多方向のセルフケア不足がある状態,全体的にセルフケア不足が生じている状態,などが考えられる.セルフケア全体がバランスのよい状態セルフケア全体がゆがんでいる状態特定方向のセルフケア不足がある状態多方向のセルフケア不足がある状態全体的にセルフケア不足が生じている状態●一人ひとりのセルフケアの状態と健康危機状況における五つの看護問題24(1)これまでの経過 津さんは,入院から3カ月半が経過した後,入院中のリハビリテーションのゴールに達したので退院し,自宅に戻った.ここでは,自宅での生活パターンが形作られる退院後約1カ月間における津さんの状況について述べる.事例 住居は,トイレ・浴室に手すりを設置した.寝室は病前は2階だったが,現在は1階の居間にベッドを置き過ごしている. 生活状況は,平日,家族が仕事や学校に出た後は一人でおり,夕方までテレビを見たり,本を読んだりして過ごす.病院で指導された自主訓練メニューを毎日実施している.近所への外出は人目を気にして避けているが,隣町のスーパーマーケットへ妻と買い物に出かけるのは,知り合いに会うことが少ないため抵抗感が少ない. 病気になり健康のありがたさを実感している.病前,もっと健康に気を配り,アルコール量や食事内容に気をつけていれば病気にならなかったのではないかと後悔している.元来,家庭では口数が少なかったこともあり,妻とは病気のことや,こういった自分の気持ちはあまり話さない. 退院後の血圧は安定している.退院後しばらくは内服薬の飲み忘れ(特に昼)があったが,薬箱を作り配薬しておくことで,最近はほとんど忘れることはなくなった.週1回,リハビリテーションのために通院しているが,その際はホームヘルパーに付き添ってもらっている.月に一度の受診は妻か長女が付き添う予定である.3事例で考える脳出血患者の家庭復帰にむけたセルフケア再獲得支援ホームヘルパー (訪問介護員)在宅の要介護高齢者,障害者に対して自宅を訪問し家事援助,身体介護サービスを提供する職種である.1級から3級までの資格がある.介護保険から給付が受けられる.評価項目点 数運動項目セルフケア食事整容入浴更衣(上半身)更衣(下半身)トイレ動作776776排泄コントロール排尿管理排便管理76移乗ベッド・椅子・車椅子トイレ66表6.3-1●退院後1カ月の津さんのFIM得点→FIMについてはp.211参照.7点は完全自立,6点は自助具や装具を使っての自立.この時点の津さんのFIM得点からは,要介助は階段昇降のみであり,1階での家庭内生活については,身の回りのセルフケアはすべて自力でできる状態にあるといえる.セルフケア不足と看護問題をイメージしやすく図解事例学習で臨床実践能力を養う※視聴方法は16ページをご覧くださいp.24p.170p.278アが低下した状態を表している.中間の円は,ヒトとしての生命の危機的状態を脱し,人として生活できる状態にシフトしたときに必要なセルフケアを表している.外側の円は,ヒトが人間としてよりよく生きていくために,よりレベルの高いQOLに関連する社会生活に必要なセルフケアを表している. 三つの各々のレベルには,日常の生活で必要度の高いセルフケア(食,排泄,清潔・整容・更衣,起居・移動,セクシュアリティ,コミュニケーション)を放射状に配列した.このように,生活に軸を据え,セルフケアに視点を置いた援助を行うときに,その人のセルフケアが,いま,どのレベルにあって,また,どの種類のセルフケアの低下が生じているかをよく観察・判断し,次に,そのセルフケアの低下をきたしている原因をアセスメントし,低下しているセルフケアを再獲得するにはどのように援助したらよいのかを考えれば,生活に視座をおいた援助が可能になる. 内側の円は,生命を維持するのに必要なセルフケアが低下した状態にあるので,その再獲得には,医学的支援としてライフサポートを受ける必要がある.例えば,食事は経口摂取に替わって輸液が行われ,排尿はトイレでの排泄に替わって尿道留置カテーテルによって行われるなどである.中間の円は,生命の危機的状態から回復し,人として生活を始められるようになったときに必要なセルフケアであり,自分の身の回りのセルフケア(日常生活動作:ADL)に関連する.このときのセルフケアの低下セルフケア再獲得モデルでは,「生命維持レベルのセルフケア」「生活基本行動レベルのセルフケア」「社会生活レベルのセルフケア」の三つの次元と,食,排泄,清潔・整容・更衣,起居・移動,セクシュアリティ,コミュニケーションの六つの種類のセルフケアを視座とする.社会生活はさらに,「家庭生活」「地域生活」「職業生活」「余暇生活」の四つの側面からみていく.六つの種類のセルフケアは,人の「生命維持レベル」「生活基本行動レベル」「社会生活レベル」のすべての次元において存在するセルフケアといえる.生命維持レベルのセルフケア  生活基本行動レベルのセルフケア  社会生活(家庭生活・地域生活・職業生活・余暇生活)レベルのセルフケア食排 泄 清潔・整容・更衣起居・移動セクシュアリティコミュニケーションその他 (睡眠やスピリチュアルなど)生命維持レベルのセルフケア  生活基本行動レベルのセルフケア  社会生活(家庭生活・地域生活・職業生活・余暇生活)レベルのセルフケア図4.1-3●セルフケア再獲得モデルの概念図●セルフケア再獲得モデル〈動画〉170セルフケアの再獲得モデルをわかりやすく図解かざして見る!

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