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73サンプルページアニメーション・動画28本収録!緩和ケア成人看護学 ❻2身体症状とその治療・看護 61●非オピオイド鎮痛薬(表2.2-4)●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) NSAIDsは,ステロイド構造以外の抗炎症作用,解熱作用,鎮痛作用を有する薬剤の総称で,主な効果は,炎症がある局所におけるプロスタグランジン産生阻害である.がんは炎症を伴うことが多いため,多くのがん疼痛でNSAIDsの効果が期待できる.特に,骨転移痛にはNSAIDsが有効である. NSAIDsの主な副作用は胃腸障害であり,予防のためプロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬,プロスタグランジン製剤などが併用される.また,腎機能障害,肝機能障害への注意も必要である.近年では,選択的cOX-2阻害薬(モービック®など)という,胃腸障害が比較的少ないNSAIDsも開発されている.アセトアミノフェン アセトアミノフェンは鎮痛,解熱作用をもつ有用な薬物であるが,抗炎症作用は非常に弱い.従来,日本ではアセトアミノフェンの使用できる用量が低く抑えられてきたが,2011年より1回1,000mg,1日4,000mgに用量拡大がなされ,国際的な標準的治療量で投与することが可能となり,2013年にはアセトアミノフェン静注液の使用も可能となった.NSAIDsによる胃腸障害や腎障害,肝障害など,副作用のリスクが高い患者に対しては,障害の程度が軽微であれば,アセトアミノフェンの使用が有用である.アセトアミノフェンは一般に,副作用は比較的少ないと考えてよい.●オピオイド● オピオイドとは,オピオイド受容体に作用する薬剤の総称である.非常に強い鎮痛効果があり,がん疼痛の治療の中心となる薬剤である.日本は,海外に比べてオピオイドの消費量が少ないことが知られており,少なくとも現状よりは積極的に使用されることが望まれている.オピオイドは,医療用麻薬ともほぼ同義で用いられる.多くのオピオイドが医療用麻薬に分類され,法律に基づく厳しい管理が医療機関に要求されている.NSAIDs非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inammatory Drugs).プロトンポンプ阻害薬PPI(Proton Pump Inhibitor)と呼ばれ,強力な胃酸分泌抑制作用を有する.代表的な商品名はタケプロン®,オメプラール®,パリエット®などである.図2.2-10●鎮痛薬の分類・非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)・アセトアミノフェン抗うつ薬,抗てんかん薬,抗不整脈薬,NMDA受容体拮抗薬,中枢性筋弛緩薬,ビスホスホネート弱オピオイド・コデイン・トラマドール強オピオイド・モルヒネ・フェンタニル・オキシコドン・タペンタドール・メサドン・ヒドロモルフォン非オピオイド鎮痛薬鎮痛補助薬オピオイド鎮痛薬表2.2-4●代表的な非オピオイド鎮痛薬項 目非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)アセトアミノフェン代表的な商品名ロキソニンⓇボルタレンⓇナイキサンⓇモービックⓇ*ハイペンⓇロピオンⓇ(注)カロナールⓇアセトアミノフェンアセリオⓇ(注)主な作用鎮痛作用抗炎症作用解熱作用鎮痛作用解熱作用特に有効な痛み骨転移痛炎症を伴った痛み̶副作用胃腸障害腎機能障害肝機能障害血小板・心血管系障害起こりにくい*選択的COX-2阻害薬であり,胃腸障害が比較的少ない.2…疼痛の治療と看護 日本では,緩和ケアはがんを中心として発展してきたため,緩和ケア=がんというイメージがあるが,定義(p.16参照)をみてもわかるように,緩和ケアは,生命を脅かすすべての疾患を有する患者・家族に適応されるべきものである.実際,2015年のアメリカのホスピスケア(ほとんどが在宅ホスピス)の統計では,緩和ケアの適応となった患者のうち,がん患者は28%に過ぎず,残り72%は心疾患,認知症,肺疾患,脳卒中,腎不全など,非がん疾患の患者である1). 非がん疾患患者の緩和ケアには,次のような特徴がある(表11-1).● がんと異なり,経過は比較的ゆっくりだが,時に急速に病態が変化する● 図11-1に,がんと非がん疾患の,終末期を迎えるまでの経過を示す2).がんは最後の1カ月に急速に身体機能が低下することが多いが,心疾患,肺疾患などの場合は,時に急性の増悪を繰り返しながら,比較的ゆっくり身体機能が低下する.また,認知症や神経変性疾患などは,長い時間をかけてなだらかに身体機能が低下することが多い.●生命予後の予測が難しい● がんの場合は月単位,週単位,日単位などで生命予後を予測してケアが行われるが,非がん疾患は,終末期を迎える経過が比較的ゆるやかであり,ある時突然病態が変化するため,予後予測が難しい.心不全や肺炎などの急性増悪により,短期間で死亡する確率が一時的に上昇しても,原疾患の治療によって回復することがある.●DNRや延命治療の中止などの判断が難しい● 生命予後の予測が難しいため,非がん疾患はDNR/DNARや延命治療の中止などの判断が難しくなる.急性増悪期には入院を余儀なくされるため,そのまま病院で亡くなることも少なくない.人工呼吸器の装着や補助人工心臓,血液透析などの治療が功を奏することもあるため,延命治療をどの時点で中止するかも難しい判断になる.1非がん疾患の緩和ケアとは1非がん疾患の緩和ケアの特徴■ 終末期を迎える経過はがんと異なり,比較的ゆっくりだが,時に急速に病態が変化する■ 生命予後の予測が難しい■ DNRや延命治療中止の判断が難しい■ 原疾患への治療が苦痛の緩和につながることがある■ 認知症,神経変性疾患,脳卒中などでは,患者本人による意思決定が困難な場合が多い■ 認知症,神経変性疾患,脳卒中などでは,長期的な介護の負担が大きい表11-1●非がん疾患の緩和ケアの特徴非がん疾患の緩和ケアも充実最新の薬剤情報を掲載p.61p.2849家族ケア265事例 Mさん(50歳,女性)は子宮癌が進行し,何度も入退院を繰り返していた.医師からは,MさんとMさんの夫,高校生の娘に「がんに対する積極的な治療法はもうありません.苦痛を和らげるケアをしていきましょう」との説明がなされている.夫と娘はほぼ毎日,仕事や部活の終わった夜に面会に訪れており,楽しそうに話している姿が見られていた.この10日間ほどMさんの全身倦怠感が強くなり,表情がすぐれず,寝ていることが増え,家族の面会の頻度が少しずつ減ってきている様子であった.ある日,Mさんは看護師に「二人とも忙しいのかしら」とつぶやいた.次の日の夕方,夫が4日ぶりに面会に来た.【設問】 夫に対する看護師の声掛けとして,適切なのはどれか.①~④の中から二つ選びなさい.①面会に来ていない間のMさんの様子について伝え,「お仕事は大変ですか」と最近の家族の状況について尋ねる.②「慣れない家事などでお疲れではないですか」と声を掛け,疲労をねぎらうとともに,早めにヘルパー派遣の手続きをすることや休息をとることを強く勧める.③Mさんが家族の面会を楽しみにしていることを伝え,面会の頻度を増やしてMさんを支えてほしいと伝える.④面会後に声を掛けて,最近のMさんの病状の変化についてどのように感じているか尋ねる.5事例:終末期患者の家族へのケア 【解答】①・④【解説】終末期のケアにおいては,予期悲嘆へのケアが重要であり,本人と家族が共に良い時間をもてるような配慮が望まれる.しかし,③のように一方的に面会を勧める姿勢は,家族の負担になりかねない.患者の病状が変化していく様子を目の当たりにして,家族は無力感を感じたり,死期が近いことを察するなど,心身の負担も増し,面会に来たくても足が遠のく場合もある. まずは,①や④のように,家族の現在の状況について把握し,家族の準備状況に合わせて,家族に関わっていくことが重要である.また,②のような家族の疲労への配慮やねぎらい,外部のサポートに関する情報提供も大切なことではあるが,今はMさん家族の面会の頻度が変化している時期であるため,現在の家族の状況を知ることを優先すべきである.p.265豊富な事例で臨床をイメージ設問で知識を確認※視聴方法は16ページをご覧ください

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