nursingraphicus2021
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87サンプルページアニメーション・動画(1)事例紹介 Eさん(34歳,女性,会社員)は,会社員の夫(36歳)と二人暮し.二人は職場内で知り合い,結婚して6年になる.Eさんに既往症および妊娠歴はない.結婚当初は,お互いの仕事を優先し避妊していたが,30歳になって子どもを考えるようになり避妊をやめた.しかし,その後も妊娠しないため,32歳で近隣の不妊専門クリニックを受診した.そこで受けた検査では,Eさんも夫も双方に異常は見つからなかった.クロミフェン療法,hMG-hCG療法を1年行った後,人工授精(AIH)を7回施行したが妊娠には至っていない.人工授精を5回実施した後,医師から体外受精へのステップアップを勧められたが,体外受精に踏み切れず,その後も人工授精を続けていた. Eさんはその後も結論が出せず,不妊相談を予約し,看護師のFさんと話をすることにした.Eさん 「以前から先生に体外受精を勧められていたので,夫とも話をしました.しかし,まだどうしようか迷っています.夫は,『体外受精って人工的な感じがするし,子どもへの影響が心配だし,お金もかかるし,そこまでしなくてもいいんじゃないの.今の治療(人工授精)を続けたら』って言うんですよね.でも,私としては,このままの治療で本当に妊娠できるのか自信がない.周りの友達は皆子どもがいるし,私も早く孫の顔を見せてあげたい.お金のことを言われると,貯金があるわけじゃないから,(体外受精を)やりたいって言えない.それに,今は治療を受けていることを会社に内緒にしていて,適当な理由を付けて遅刻や早退しながら通っているけど,体外受精になると病院に行く回数も増えて,このまま仕事が続けられるか不安です…」「不妊治療のことは誰にも話していないので,周りから『子どもは?』ってよく聞かれ,『そのうちね』って返していますが,嫁ぎ先の親に言われると肩身が狭くて…」「ここのところ,今後の治療をどうするかという話題で夫と話をしていますが,(夫は)楽観的なのか,何とかなるという感じなんですよ….最近は『(体外受精を)したいんだったらしたら』って….ここに通い始めてからあっという間に2年がたってしまいました.いつになったら妊娠できるのでしょうか? 体外受精をしたら妊娠できますか? この先,私はどうしたらいいんでしょう….Fさんだったら,体外受精しますか?」 3生殖補助医療のステップアップに悩むEさん19310倫理的課題の実際4本収録!概論・リプロダクティブヘルスと看護母性看護学 ❶※視聴方法は16ページをご覧くださいとの報告があり,日本産科婦人科学会による疫学調査が行われている10). 不妊となる原因としては,骨盤内の癒着による卵管の狭窄・閉塞(時に卵管水腫を形成する)や卵管周囲癒着,卵巣チョコレート嚢胞による卵巣機能の低下,慢性炎症による腹腔内環境の悪化などがあるといわれている.(1)診 断 子宮内膜症の診察所見は,子宮可動性の制限,ダグラス窩の硬結と圧痛,卵巣の嚢胞などである.補助診断として,血中CA125の上昇を確認する.疼痛症状のみで腫瘤④消化器系疾患(便秘,過敏性腸症など),⑤尿路疾患(尿路感染症,結石,間質性膀胱炎など),⑥術後骨盤内癒着,⑦筋筋膜系の疼痛,⑧ホルモン異常,⑨薬物依存,⑩心因性の疼痛(仮面うつ病,不安障害,身体表現性障害,適応障害など)図7-6●子宮内膜症卵巣チョコレート囊胞の超音波像子宮癒着直腸卵巣チョコレート囊胞135多彩な図で具体的にイメージ事例を通して倫理的課題への取り組み方を理解p.67 生殖補助医療においては,夫婦の自己決定権が尊重され,相談者夫婦と医療者との間では合意形成が図られるが,生まれてくる子の同意を得ることはできない.また,着床前診断の技術を用いた胎児の選別が行われる可能性もある. 配偶子提供や代理懐胎は,親子・家族という社会の枠組みを変える可能性がある.例えば,性同一性障害で,戸籍上,性を変更した女性(変更後は男性)が女性と結婚し,第三者から精子の提供を受けて子どもをもった場合の戸籍の扱いといった問題がある.また,これまで非配偶者間人工授精(artificial insemination with donorʼs semen:AID)で出生した子に,その事実が伝えられることはほとんどなかったが,子が出自を知る権利も保証されるべきであろう.配偶子提供や代理懐胎といった第三者が関与する場合の社会的規制は未整備であり,議論されている. 死後生殖の問題もある.現在は,夫婦が死別,離婚した場合は凍結胚を廃棄することになっている. 生殖補助医療による影響について,長期的にフォローアップすることが望ましい.特に子の身体発育や精神運動発達といった,長期に及ぶ追跡調査が行われる必要がある. 現在,日本には生殖補助医療を規制する法律は存在せず,表4-9に示すような学会等の見解によって規制されている. 2倫理的課題 3生殖補助医療に関連する見解図4-5●生殖補助医療による出生児数の推移出生児数(年)1992939495969798992000010203040506070809101112131415凍結融解胚移植出生児顕微授精出生児体外受精出生児(人)60,00050,00040,00030,00020,00010,0000日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会.ARTデータブック:2015年.https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2015data_201709.pdf,(参照2018-08-08).674リプロダクティブヘルスに関する倫理最新の情報を掲載

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