nursingraphicus2021
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97サンプルページアニメーション・動画13本収録!精神障害と看護の実践精神看護学 ❷ 精神機能の病的な状態が精神疾患である.米国精神医学会(APA)の診断基準であるDSM−5によれば,「精神疾患とは,精神機能の基盤となる心理学的,生物学的,または発達過程の機能不全を反映する個人の認知,情動制御,または行動における臨床的に意味のある障害によって特徴づけられる症候群」と定義される. 精神疾患に罹患した人には,精神症状が見いだされる.精神機能は,意識,注意や知覚,記憶や知的能力(知能),思考,感情,意思や意欲などの要素から成っているため,精神症状は,意識の障害,注意の障害,記憶の障害,思考の障害,感情の障害,意欲の障害などとして現れる(図1.1-1). 人間は社会環境の中で生きており,精神機能が病的になると,程度の差はあれ,日常的な行動や対人関係に変化や支障をきたす.したがって,精神症状は,本人による自己の精神内界に関する説明,本人や家族等からの日常生活の報告,面接時の表情,態度,身なりの観察などから総合的に確認される.(1)意識の障害 意識は精神活動の前提であり,舞台を照らす照明に例えられる.意識が障害されると,覚醒レベルが低下する(意識混濁).その程度を示すために,日本では3-3-9度方式(Japan Coma Scale)が用いられる(表1.1-1).1精神疾患総論1精神疾患と精神症状精神保健福祉法における精神障害者の定義「この法律で『精神障害者』とは,統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」(第5条).精神病精神疾患と同様の意味で精神病という言葉が使われることがある.精神病の明確な定義はなく,一般に幻覚や妄想があることや極端な興奮など,通常からの逸脱が大きい症状を有する精神疾患を指すことが多いが,必ずしも回復困難であることを意味するものではない.「産後精神病」「アルコール精神病」「術後精神病」などと,以前からの慣用で使われている場合もある.2主な精神症状図1.1-1●精神機能の要素精神機能意 識注 意知 覚記 憶知的能力思 考感 情意志・意欲精神症状は,これらの機能の障害として現れる.14豊富なイラストで理解を促進 ひと口に精神障害といっても,その症状は千差万別であり,幻聴や妄想などの精神症状がある人でも,24時間を通してそれらの症状に悩まされているというわけではない.精神症状が軽減しているときには,散歩に行ったり,ビデオを見たり,他者と交流しながら自分なりの生活をしている. しかし,実際には彼らを悩ませる精神症状はさまざまな形で日常生活に影響を与えている.精神障害者の日常生活を見てみると,精神症状の深刻さと日常生活行動の自立度とは必ずしも一致していないことがわかる.その生活パターンの特徴をみてみよう.2日常生活行動の援助1入院患者の日常生活非言語的コミュニケーション陽性症状陰性症状声なき悲鳴居心地よい無関心共感的環境重要用語 統合失調症の診断を受けている50代のAさんは,病院で10年近く入院生活を送っている女性患者である.表情もやわらかく,同室者とも仲がよい.薬物療法を受けており,現在のところ目立った精神症状はない.普段,自分から積極的に他者に話しかけていくことはあまりないが,看護師が誘えば,プログラム活動や病棟のレクリエーションなどにも継続的に参加する. しかし一方,日常生活面では,物を整理したり,不要な物を判断して処分したりすることができないため,6人部屋であるにもかかわらず,ベッドの周囲は足の踏み場もない状態である.また何日も汚れたままの服を着ていたり,髪の乱れも気にかけない.ときどき整理整頓を勧め,看護師も一緒に片付けをするが,何年も前の週刊誌や食べかけの菓子袋が出てきたり,化粧ポーチから腐ったバナナが出てくるといったこともあった. Aさんは穏やかな人で,現在のところ,病棟内に限っては対人関係に関する問題はないように見えるが,日ごろの生活においては自己管理,自己コントロールができず,共同生活をする上でトラブルを起こしやすいケースである. Bさんは,統合失調症の診断を受け,過去20年間,入院と退院を繰り返している40代の女性患者である.活動することが大好きで,音楽が好きな,人なつっこく明るい人である.病院で計画されるスポーツ大会や花火大会,病棟の誕生会などには自分から参加するが,普段の行動には統一性がないことも多い. 例えば,火のついたたばこをテーブルに置いたまま席を離れたり,ライターや眼鏡を置き忘れてなくすなどは日常茶飯事である.繰り返し声かけをするが,行動修正がきかない.たばこをなくすと他の患者にたかったり,茶碗に顔をつっこむようにして食べていたり,洗濯機の水を出しっぱなしにするなどの行動がみられる.1150p.14p.150p.209事例やケースを随所に揭載精神科の看護実習とは/患者からのさまざまな感情表出/カンファレンスの意義/実習の記録コラム:災害時地域精神保健医療活動※視聴方法は16ページをご覧ください(3)共同作業所 病気や障害をもちながらも,地域での生活者としての視点で社会に適応できるよう,障害者,家族,ボランティア等が共同で働く場をつくり,自主的に運営している.共同作業所によっては,働いて収入を得ることを最大の目標とはせずに,人との交流を重視している.近年,障害者総合支援法により地域活動支援センターや就労継続支援事業所に移行して運営されているところも多い. 共同作業所の主な活動としては次の五つが挙げられる.①コミュニケーションを通して対人関係を修復する場の提供②安らぎの場の提供③自己の適性に合った奉仕活動やレクリエーションを通して社会参加の促進④就労訓練や生活訓練を通して社会復帰の促進⑤働く場を提供し賃金を得ることを学習する場の提供●就労継続支援事業所の例●地域で生きる〜働く場所〜〈動画〉●就労継続支援事業所で作られている豆腐やクッキー2097精神保健活動とリハビリテーション貴重な動画で臨床をイメージかざして見る!

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